フレキシブル・ワーク ~働き方はどこまで進化できるか──村田弘美

2023年03月28日

40年に一度、働き方が変わる

歴史を振り返ると、私たちが働くルールは、1911(明治44)年に制定、1916(大正5年)に施行された工場法、1947(昭和22)年に定められた労働基準法が「最低基準」となっている。

112年前に定めた労働時間は1日12時間、休日は月2日とかなり長い。36年後の労働基準法では、1日8時間・1週48時間、休日は週1日(4週4日以上)となった。バブル期くらいまでは、早朝から深夜まで働き続け、土曜日も半日程度勤務する週休1日も珍しいことではなかった。その40年後、1987年から原則、1日8時間・1週40時間となる。 

img_murata.jpgそして、近年ではテクノロジーの進化や働き方改革、新型コロナウイルス感染防止の観点から、働く場所は職場から自宅や外出先とするテレワーク、リモートワークで働くことが可能となっている。大きな流れでは、35年から40年くらいのサイクルで働き方が変わっている計算になる。各所で週休3日制の議論やトライアルも始まった。いまはちょうど働き方の地殻変動が起こる時期のようだ。

働き方とは「どのように仕事をするか」であるが、基本的には、「時間」×「休日・休暇」×「場所」で構成される。「テクノロジー」がエンジンとなり、フレキシビリティと生産性を向上させている。コロナ禍以降は、Teamsやslackといった「ワークサイト」がほぼ職場として機能しており、アプリの機能も日ごとに進化している。チャットで会話、掲示板で情報共有、会議や面接もオンラインで行えるなど、職場で行われていた一部の機能を代替できるようになった。

欧州は半歩先のフレキシブル・ワーク

一方、欧州企業の働き方はどのように進化しているのだろうか。この数年間は、一部の国で、テレワーク、リモートワークをする権利(在宅勤務権)などの整備が進められた。現在欧米8カ国の働き方についての調査を進めているところであるが、特に欧州では働き方が多様化している。その一部であるベルギー、デンマーク、英国について紹介する。調査では、各国の働き方のアワード受賞企業にも注目しているが、サバティカル休暇制度などが散見される。これまでにも労働組合加入者の数パーセントの従業員に毎年長期休暇を付与する企業もあったが、DXに対応してサバティカルで集中的に学ぶ機会をつくる企業もあるようだ。 

有給休暇を同僚とシェアする(ベルギー)

ベルギーの労働時間はEU指令に則り、最大週40時間(1日8時間)であるが、「柔軟な働き方に関する法律(2017年3月)」では、労使間の合意があれば、年に最大100時間の残業が可能となった。休暇制度では、フルタイムの従業員は、年間最大4週間の休暇を取得する権利がある。ベルギーでは、育児休暇と介護休暇のほかに2011年に導入した「タイムクレジット」など、11種類の休暇がある。労働協約第77B号(2001年)で初めて導入され、労働協約第103号(2014年)で改正されたタイムクレジットは、雇用契約を継続したまま、キャリアブレイクや労働時間の短縮を申請することができる。また、ユニークな制度では、有給休暇のシェアリングがある。同法では、例えば、重篤な疾病や障害を負った子ども(21歳未満)を持つ同僚や、特に重大な事故に遭った同僚に、自発的に休暇を寄付することができる。似たような制度は米国でも行われていたが、公務員の一部にすぎず、国全体での取り組みではなかった。

パート、フルタイムの出入りが可能に(デンマーク)

デンマークでは、賃金と労働条件は、労働組合と使用者の間で締結された労働協約を通じて確立される。政府は、雇用主と労働者が合理的な方法で問題を解決できる限り、賃金と労働条件の規制にできるだけ介入しない。標準的な労働時間は週37時間である。柔軟性の高い制度を提供している企業の割合は約97%と高い。
2020年3月、雇用契約(形態)を変更せずに、契約労働時間を一時的に短縮できるようになり、労働時間の柔軟性が高まった(労働時間を週に2日短縮するなど)。同年8月には、すべての雇用主にジョブシェアリングスキームが適用になった。

柔軟な働き方が法的権利に(英国)

英国では、2000年の「ワークライフバランスキャンペーン」以降、労働家族法(2006年)、児童家族法(2014年)、育児法(2016年)など、より柔軟な労働規則などの法律を導入し、 すべての労働者に柔軟性とサポートを提供している(図表)。
「The Flexible Working Regulations 2014」の制定に伴い、育児や介護責任の有無を問わず、すべての従業員が柔軟な働き方を申請する法的権利を有する。従業員が柔軟な働き方を申請した場合、雇用主にはこれを適切に検討する義務があり、正当な業務上の理由がない限り、却下することはできない。2019年の総選挙で保守党が「柔軟な働き方を奨励し、標準的な働き方とする」と公約に掲げたことから 、英国政府は2021年9月から、柔軟な働き方に関する権利の拡大についてパブリックコメントを実施し、分析を行っている。協議の対象となるのは、在宅勤務やフレックスタイム以外の柔軟な働き方である。このほか、ジョブシェアリングや圧縮労働時間制、時差勤務、段階的退職についても検討される見込みである。

現在は職場での柔軟性が、英国における労働力不足に対する可能な解決策の1つとなっている。特に50歳以上の人々を、メンタリングやスキルトレーニングを通じて、パートタイムや柔軟な仕事を含めた労働市場に戻すための新しい方法を検討している。

図表は英国のフレキシブル・ワークの例だが、在宅勤務(テレワーク・リモートワーク)、パートタイム労働、圧縮労働時間制、フレックスタイム制、年間労働時間制、時差勤務といった日本と同じ働き方もあるが、ジョブシェアリング、段階的退職、週4日、週4日半勤務制、学期間労働時制、2週間で9日勤務制というより柔軟な制度もある。
特に欧州では、業界レベル、工場レベルで、団体協約によって契約の一部または全体を変更することができることから、1日6時間勤務の企業も増えているなど、働き方はますます多様化している。

図表 英国のフレキシブル・ワークの例
図表 英国のフレキシブル・ワークの例出所:GOV.UK、英国国家統計局(ONS)

 

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