動機づけの上手いマネジャーになるためには、何をすべきか 津田 郁

2017年12月26日

2017年にリクルートワークス研究所が、東証一部企業(197社)の人事部を対象に行った「Works 人材マネジメント調査 2017」の調査結果では、管理職に必要とされる16の能力・スキルのうち、「部下の動機づけスキル」が最も不足しており、育成課題としていることが明らかになった。上位10項目は図表1のとおりである。

図表1 課長相当職の管理職の能力・スキルについて、特に課題と感じているものitem_works03_tsuda_tsuda_2018_04.jpg出所:リクルートワークス研究所「Works人材マネジメント調査2017」

「部下の動機づけスキル(40.1%)」をはじめとして、「コーチングスキル(24.4%)」「部下へのフィードバックスキル(20.8%)」「部下の育成計画作成スキル(19.8%)」といった部下に関するマネジメントスキルが課題であるという結果が確認された。これは、部下とのコミュニケーションの取り方や部下のモチベーション向上の方法について、いかに日本企業が強い課題感を持っているかを物語っている。

では、部下の動機づけの力が高いマネジャーと、そうではないマネジャーには、どのような行動に違いがあるのだろうか。さらには、部下を動機づける行動をどのように身につけて行けばよいだろうか。

部下の動機づけが上手いマネジャーは、どのような行動に差があるか

リクルートワークス研究所では、2017年9月に、1,221名のマネジャーを対象に「マネジメント行動に関する調査」を実施した。調査対象者は、5名以上の部下を持ち、部下の一次考課者である管理職だ。彼らに、マネジャーとして日々の業務推進に必要と考えられる39のマネジメント行動について、その実施状況を尋ねた。各マネジャーが部下を動機づけるマネジメントスキルに違いが生じているかを把握するために同調査の3つの設問「チーム全体のモチベーションが高い」「チームとして一体感がある」「チームとして向上心が高い」の回答の詳細分析から、部下の動機づけが「上手いマネジャー(A)」と「上手ではないマネジャー(B)」に分類した。図表2は部下の動機づけが「上手いマネジャー」と「上手ではないマネジャー」との間で、39のマネジメント行動の中から大きな違いが生じている5つの行動を示したものである。なお、以下から行動の主体はマネジャーとして解説する。

図表2 部下の動機づけが上手いマネジャー(A)と上手ではないマネジャー(B)の行動の比較item_works03_tsuda_tsuda_2018_06.jpg出所:リクルートワークス研究所「マネジメント行動に関する調査2017」
注) マネジメント行動ができている割合は、(A)と(B)それぞれに、該当する行動について質問を行い、5件法で求めた回答のうち「よくあてはまるできている」か「どちらかというと、あてはまる」と回答した比率を掲載。

部下の動機づけが上手いマネジャーと上手ではないマネジャーの間で最も実施状況に差が大きい行動は、部下への職務のアサインについての「内省」である。これは当該期の終了時に実施する行動だ。部下の動機づけが上手いマネジャーの79.5%は、内省ができていると回答しているのに対し、上手ではないマネジャーは42.5%と、実に37ポイントもの差があることがわかった。部下の動機づけが上手いマネジャーは、職務のアサインとその結果について、時間を確保して自ら振り返っていると考えられる。

「内省」に続いて実施状況の差が大きい「加筆修正」「リアルタイムフィードバック」「ディスクローズ」の3つの行動は、部下の職務の進捗時や完了時に、部下のアクションや職務のアウトプットを見て実施する行動であり、これらもすべて30ポイント以上の差が開いている。いずれも、より効果的に実施するためには部下の様子や職務の状況を把握していることが要点となる行動だ。部下の動機づけが上手いマネジャーは、部下に職務を任せた後も放置せずに、部下や職務の状態の理解に努めていることがわかる。

5つ目の「意義付け」は、マネジャーが部下に職務を任せる際に実施する行動である。部下の立場からすれば、単に職務を割り振られるよりも、その職務における重要性や意義・価値について説明を受けたうえで任された方が、当然意欲は高まるものだ。部下の動機づけが上手いマネジャーは、部下への職務委任について丁寧に取り組んでいることが見てとれる。

以上が、部下の動機づけが上手いマネジャーと、上手ではないマネジャーとの間で、特に実施に差がある5つの行動だ。部下の動機づけが上手いマネジャーは、部下への職務委任時、職務進捗時、職務完了時、さらには期末といったマネジメントプロセスのあらゆる場面で部下の意欲を高めるための行動をとっていることがわかる。

次に、これらのマネジメント行動をどのように習得していくべきかについて考察する。

動機づけスキルを身につけるためには、どうすればよいのか

部下の動機づけスキルを課題と感じているマネジャーは、どのようなステップを踏んで動機づけに関するマネジメントスキルを身につけていけば良いのだろうか。図表3は上記で紹介した5つの行動を実施している比率が、マネジメント経験年数によってどう変わるかを表したものだ。

図表3 マネジメント行動とマネジメント経験の関係item_works03_tsuda_tsuda_2018_03.jpg出所:リクルートワークス研究所「マネジメント行動に関する調査2017」
注) 縦軸はマネジメント行動の実施状況。該当する行動について質問を行い、5件法で求めた回答のうち「よくあてはまる」と回答した比率を掲載。

まずは、「内省」について見てみよう。これは経験年数の低いマネジャーほど、実施することができていない行動であり、マネジメント経験が積み重なるほど行動できる比率が高まっている。

一方で、「リアルタイムフィードバック」や「ディスクローズ」を見ると、経験年数が低いマネジャーであっても、比較的その行動を実施できており、経験年数による差が小さいことがわかる。「リアルタイムフィードバック」とは、部下が良い行動をしたら即座にポジティブなフィードバックをすることだが、これは初級クラスのマネジャーであっても、実行することが可能な行動なのである。

このように、マネジメント行動の中でも、習熟するまでに一定の時間を要するものもあれば、直ちに実践できるものもあることがわかる。つまり、部下の動機づけの上手いマネジャーになるためには、まずは「ディスクローズ」や「リアルタイムフィードバック」という行動を習得し、マネジメント経験を積むにしたがって「意義付け」「加筆修正」「内省」といった行動も習得していく、というステップを踏むことが重要だ。これにより、より効率的にマネジャー自身が成長していくことができると考えられる。

なお、リクルートワークス研究所ではマネジャーのジョブ・アサインメントスキルに着目した研究プロジェクトを進めている。適切に職務を設計し、最適な人材に職務を任せて管理するジョブ・アサインメントスキルの内容についてはこちらを参照していただきたい。

津田 郁

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