AIでのコーチングで従業員の成長を促し、次世代リーダーを選出──キャリア開発&サクセッションプランニング
キャリア開発プラットフォーム(以下、PF)は、従業員がリーダーシップ能力や営業力の向上、チームマネジメント、キャリア形成、ストレス管理などの目的達成や課題解決をサポートするコーチングをアプリやPC経由で受けられるシステムである。
サクセッションプランニングPFは、特定のポジションにおける後継者の選出をサポートするシステムである。チームリーダーやミドルマネジャー、上級幹部など、幅広いリーダーポジションを対象としている。
各PFの機能はそれぞれ下記の4つに大別される。
〈キャリア開発PF〉
- 個別アセスメント
- 育成プランの自動作成
- AIによる従業員とコーチのマッチング
- 「パーソナルコンシェルジュ」:生成AIがコーチングセッションの内容要約、内省、目標設定などをサポート
〈サクセッションプランニングPF〉
- 候補者のアセスメント:性格特性やシミュレーションによるアセスメント
- 候補者のレディネス(準備度)の予測:特定のポジションにおいてどれくらいの準備期間で能力を発揮できるかを予測
- 社内人材の検索
- 9ボックス:パフォーマンスとポテンシャルを基に、リーダー人材の候補者を客観的かつ公平に比較できる
人事にとってのメリット
個別最適化された人材開発を実現
コーチとのマッチング機能によって、従業員一人ひとりに適した能力開発やキャリア形成を促進できる。
客観的な判断による候補者の選出
9ボックスツールやアセスメント機能を活用することで、客観的なデータを基に次世代リーダーとなり得る候補者を選出できる。
中長期的な人材育成
候補者のレディネスの予測機能により、育成にどれくらい時間がかかるかを想定して中長期的な視点で育成に取り組むことができる。
各事業者のサービス概要
各事業者のサービス概要は下記のとおりである。
- Landit:法人および個人向けコーチングPF。従業員のニーズに合ったコーチのレコメンデーションやコーチングセッションの予約・受講、キャリアパスの設計、興味・志向に合ったオンライン講座やアドバイス記事の表示などの機能を持つ。ICF(国際コーチング連盟)または同等の資格(15年以上の経験、多様な文化に精通)を持つコーチがパーソナルブランドの構築や昇進面接の準備などをサポートする。
- TalentGuard:タレントマネジメントシステム。サクセッションプランニングの機能では、縦軸に業績レベルを3段階、横軸にポテンシャルのレベルを3段階に分けた9ボックスツールを活用し、候補者を選定する。職種や部署名、スキル、コンピテンシー、勤務地、実績、キャリア志向などを基に、条件を満たす従業員を検索する機能もある。また、候補者を並列表示し、現職の経験年数や社内での職歴、ポジションに求められるスキルの保有を基に候補者を比較分析できる。
- Jombay:アセスメントおよび能力開発PF。アセスメント機能では、性格特性や批判的思考力のアセスメント、360度評価などがある。能力開発では、マネジャーやリーダー向け研修(パーソナルブランディングやリモートマネジメントなど)やコーチングなどがある。
- PageUp:HCM(人材管理システム)。サクセッションプランニングの機能では、従業員プロフィールでスキル、経験、キャリア志向などを一覧表示する。またチームワーク、イノベーション、コミュニケーション力といったコンピテンシーを基に、特定のポジションに対する適合度を表す。さらに、9ボックスツールで候補者のパフォーマンスとポテンシャルを比較表示する。
サービス例
1. BetterUp
法人および個人向けコーチングPF。①ビデオ通話での専属コーチによる1on1、②栄養学や睡眠、DEI、コミュニケーションなどの専門家による専門コーチング、③プレゼンテーションやコミュニケーションスキルなど具体的なニーズに対するオンデマンドでのコーチング、④コーチ指導によるグループでのライブセッションの4種類のサービスを65カ国語で提供する。
従業員が強みや改善点を明らかにするアセスメントを受けると、個別の育成プランが自動作成される。ICFの資格を持つ世界約70カ国、約3000人の所属コーチの中から、AI が個人の目標やニーズに合ったコーチをレコメンドする。従業員は経歴や資格などを基にコーチを選んでセッションを予約し、アプリやPC経由でセッションを受ける。
セッションの合間には、動画、ポッドキャスト、クイズ、ワークシートなど、AIがおすすめする学習コンテンツで学びを深めることができる。さらに生成AIが「パーソナルコンシェルジュ」の役割を果たし、セッション内容の要約、内省、目標設定などをサポートし、人間によるコーチングを補完する。社内のHCM(人事管理システム)とのデータ連携により、組織再編、昇格後、育児休暇明け、定年退職前などのタイミングに、従業員に適したコーチングをAIがタイムリーにレコメンドする機能もある。
人材開発担当者は、ダッシュボードで従業員の満足度、目標の達成度、定着率、昇進率、業績評価など、コーチングのROIを把握できる。
顧客は、Google、Hilton、Chevron、Salesforce、WarnerMedia、Mercedes-AMG PETRONAS F1、カリフォルニア州サンタモニカ市、NASA(米航空宇宙局)など、約600の組織。
2. Pinsight
採用、育成、サクセッションプランニングのためのアセスメントPF。サクセッションプランニングでは、①性格特性、②シミュレ―ションアセスメント(実際の仕事内容と類似した実務を体験させ、即戦力となるスキルや知識を見極める)、③ラーニングアジリティ(学習機敏性)の3種類のアセスメントで候補者の適性を評価する。
またアセスメントの結果を基に、候補者のレディネス(準備度)を予測分析し、「すぐに後任となれる人材」「半年かけて後任として育成する人材」「1年かけて後任として育成する人材」に分類する。
人事や経営幹部は、これらのデータを基に総合的に判断したうえでリーダー候補者を選出する。さらに、消費者ブランドの構築や組織戦略の策定など、特定の業務への適性を持つ従業員が何割いるか、候補者層の厚さを分析し、数値で表す機能もある。
顧客はNovartis、AIG、American Airlines、Scotiabank、Randstadなど。
ビジネスモデル(課金形態)
企業がサービス事業者にシステム利用料を支払う
企業がサービス事業者に従業員のコーチングやサクセッションプランニングをサポートするシステムの利用料を支払う。料金体系はサービス事業者によって異なり、利用できる機能に応じて複数のプランを設けているサービス事業者もある。
今後の展望
欧米ではさまざまな法人コーチングPFが設立され、大型の資金調達を実施するなど活発な動きが見られる。Future Market Insightsによると、世界のコーチングPFの市場規模は2024年の26億9520万ドルから、2034年には99億5200万ドルに達するという。今後も多数のサービス事業者が参入し、PF間の競争が激化すると予想される。
サクセッションプランニングについては、同機能のみを提供するサービス事業者はほとんど見当たらない。上述のサービス以外にも、多くの大手HCMやピープルアナリティクスPFが、複数ある機能の1つとしてサクセッションプランニングのサービスを提供している。
近年では、eightfold.aiをはじめ、AIがスキルを判定し、人材とジョブとのマッチングを行う「スキルテック」と呼ばれるサービス事業者がサクセッションプランニングの機能を追加している。今後AI機能の活用がさらに進めば、次世代リーダーや後継者の適性をより高い精度で見極めることができるようになるだろう。
グローバルセンター
杉田真樹(リサーチャー)