
住民自治活動の参加者の当事者意識はどのように高められるか?
実践レポート初回はまちづくり協議会に関する事例である。住民自治の推進主体として多くの自治体で導入されている取り組みだが、何もしなければ緩やかな義務感で動く組織となりがちである。本稿では、住民自治活動への参加者の当事者意識の構造解明に取り組んだ調査研究を紹介する。
まちづくり協議会による住民自治の進展
近年、全国の自治体では高齢化と人口減少が進行し、地域コミュニティの維持が重要な課題となっている。また、財政基盤の強化と効率的な行政サービスの提供を目的として市町村合併が進められた結果、行政区が大きくなり、地域のニーズに合わせた行政サービスの提供が難しくなったとされる。このような状況の中で、小学校区を基本的な単位として、住民が政策形成過程に参加する機会が増えており、その代表的な組織形態が「まちづくり協議会」である(総務省の正式呼称は地域運営組織)。
総務省の最新の調査(※1)によれば、令和5年度には全国で7,710の地域運営組織が確認され、令和4年度(7,207団体)から503団体増加(7.0%増)している。また、地域運営組織が形成されている市区町村は874市区町村であり、全国の約半数の自治体に及んでいる。まちづくり協議会は、住民自治の推進策として今後もより多くの自治体で設立が進むと見込まれる。
壱岐市では、平成31年に壱岐市まちづくり協議会設置条例が制定され、令和元年10月に最初のまちづくり協議会が設立された。それ以降、現在(令和7年3月)までに市内の18校区中15校区に協議会が設立されている。多くの協議会では、地域の子供の登下校の見守りや災害時の独居世帯の見回り、地域の美化活動といった日常的な公助活動が行われている。それに加えて、協議会による学童保育の提供やコミュニティバスの運行、地域の特産品の開発など、地域特性に合わせた取り組みも展開されている。
総務省の最新の調査(※1)によれば、令和5年度には全国で7,710の地域運営組織が確認され、令和4年度(7,207団体)から503団体増加(7.0%増)している。また、地域運営組織が形成されている市区町村は874市区町村であり、全国の約半数の自治体に及んでいる。まちづくり協議会は、住民自治の推進策として今後もより多くの自治体で設立が進むと見込まれる。
壱岐市では、平成31年に壱岐市まちづくり協議会設置条例が制定され、令和元年10月に最初のまちづくり協議会が設立された。それ以降、現在(令和7年3月)までに市内の18校区中15校区に協議会が設立されている。多くの協議会では、地域の子供の登下校の見守りや災害時の独居世帯の見回り、地域の美化活動といった日常的な公助活動が行われている。それに加えて、協議会による学童保育の提供やコミュニティバスの運行、地域の特産品の開発など、地域特性に合わせた取り組みも展開されている。
まちづくり協議会の課題
総務省の調査によれば、地域運営組織では「担い手の不足」や「次期リーダー人材の不足」などの人材の枯渇が大きな課題となっている。また、その次の課題として「地域住民の当事者意識の不足」が挙げられており、制度の広まりと共に資金的な支援は充実してきている一方で、人材供給や住民の参加意欲を高める施策は遅れていると言える。
私が役員を務めた壱岐市内のまちづくり協議会でも、設立初年度は取り組み内容が事前の住民アンケートの結果からある程度決められており、自治公民館長や婦人会代表などの地域団体の役職者が当て職で配置されていた。そして、協議会全体としてどのような地域を目指すのか、また個々人がどのような課題意識を持っているのかを共有する機会はなく、緩やかな義務感のもとで活動が進められていた。その結果、参加者の主体的な行動はほとんど見られず、会員の活動への参加には大きなばらつきが生まれ、協議会に所属していない地域住民を巻き込んだ活動は展開されず、初年度の成果としては物足りないものに終わった。
一方で、参加者の活動意欲が低かったかというと、そうではなかった。むしろ、これまでの自治会や町内会単位の活動よりも手厚い支援のもとで自治活動を推進できることに期待していた住民も多く、実際に話を伺うと地域の将来を何とかしなければならないという想いを持っている方が多くいた。このような地域の方々が思うように力を出せず悔しい思いを口にしているのを聞き、私は何か役に立ちたいと思い、当時通っていた大学院の修士論文として参加者の当事者意識の構造解明に着手し、参加者の意識変革を促す実践的な組織運営の知見を得ることに取り組んだ。
私が役員を務めた壱岐市内のまちづくり協議会でも、設立初年度は取り組み内容が事前の住民アンケートの結果からある程度決められており、自治公民館長や婦人会代表などの地域団体の役職者が当て職で配置されていた。そして、協議会全体としてどのような地域を目指すのか、また個々人がどのような課題意識を持っているのかを共有する機会はなく、緩やかな義務感のもとで活動が進められていた。その結果、参加者の主体的な行動はほとんど見られず、会員の活動への参加には大きなばらつきが生まれ、協議会に所属していない地域住民を巻き込んだ活動は展開されず、初年度の成果としては物足りないものに終わった。
一方で、参加者の活動意欲が低かったかというと、そうではなかった。むしろ、これまでの自治会や町内会単位の活動よりも手厚い支援のもとで自治活動を推進できることに期待していた住民も多く、実際に話を伺うと地域の将来を何とかしなければならないという想いを持っている方が多くいた。このような地域の方々が思うように力を出せず悔しい思いを口にしているのを聞き、私は何か役に立ちたいと思い、当時通っていた大学院の修士論文として参加者の当事者意識の構造解明に着手し、参加者の意識変革を促す実践的な組織運営の知見を得ることに取り組んだ。
JD-Rモデルを用いた住民自治活動参加者の当事者意識の構造解明
調査として、ワーク・エンゲージメント研究で多用されるJD-Rモデル(※2)に基づいて作成した全53問の調査票を、当時壱岐市内でまちづくり協議会に所属していた市民に配布し、384通の回答を得た。得られたデータをクリーニングした上で共分散構造分析を行い、住民自治活動の参加者の当事者意識の構造モデルを抽出した(図1参照)。
図1 住民自治活動の参加者の当事者意識の構造モデル(筆者作成)
図1 住民自治活動の参加者の当事者意識の構造モデル(筆者作成)

この結果から得られた知見の1つ目は、当事者意識(Outcome)の高まりに対して中核的な役割を担う仕事の資源(Job resources)の構成要素として最も強い関連性を持っていたのは社会的な資源(Social resources)であったことである。この要因は、周囲とのスムーズな協働や活動にのびのびと参加できている感覚、自身の役割の明確さ、周囲からの期待に応えられている感覚など、組織内の他者との関係性からもたらされる動機付け要因である。住民自治活動においては、協働する周囲の人との関係性が当事者意識の高まりにおいて最も重要であることが分かった。
2つ目の知見は、地域への愛着や感謝といった一人ひとりの参加者の認知的な特性が重要な動機付け要因となっていることが明らかになった点である。JD-Rモデルでは、従来から楽天性や立ち直りの早さ、自己肯定感といった個人の性格的な特性を個人の資源(Personal resources)として扱っていたが、本研究では性格的な特性(Trait resources)と地域への愛着や感謝といった個人の認知的な特性(Cognitive resources)を分けて因子として規定して分析した。その結果、認知的な特性が性格的な特性と同等以上の影響力を持つことが示された。これは、認知的な特性が性格的な特性よりも変化を起こしやすいという点で、実務的な価値が高い発見と言える。
3つ目の知見は、まちづくり協議会においてリーダーシップがどのように機能しているかが明らかになった点である。結果からは、公正な組織運営(Organizational resources)や内部の不和の解消(Organizational demands)に寄与する要因として機能していることが示された。これは、地元の学校の元校長や宮司など、地域の有力者が顔役としてリーダーを務めるという地域社会の実態から見ても納得できる内容である。そして、このことは組織内の関係性の質を高めたり、ビジョンを示したりすることで活動への意味付けを強化するといったリーダーシップが持つ他の側面を別の方法で補うことが有益であることを示している。
この研究によって、住民自治活動への参加者の当事者意識がどのような構造の中で高まり、どの要因がどれくらいの影響力を持っているのかが明らかになった。次項では得られた知見に基づいて、実際に実施した組織開発施策についてレポートする。
(※1):総務省 「地域運営組織の形成及び持続的な運営に関する調査研究事業 報告書」 https://www.soumu.go.jp/main_content/000875019.pdf
(※2): JD-Rモデル(仕事の要求度-資源モデル)は、平成13年にDemerouti, Bakker, Nachreiner& Schaufeliによって提唱された理論。仕事の要求度(Job Demands)と仕事の資源(Job Resources)のバランスが従業員のストレスレベルやワーク・エンゲージメントに影響を与えるとされている。
執筆:中村駿介

中村 駿介
2006年株式会社リクルート入社、以来一貫して人事関連の業務に従事。2019年に新たな人事のパラダイムを模索する実証実験組織「ヒトラボ」を立ち上げる。2020年に長崎県壱岐市に移住、地域活性化企業人として政策立案と実行、市役所の組織改革に取り組む。2023年3月、慶應義塾大学大学院・政策メディア研究科を修了、同年、北海道東川町との2拠点生活を始め、同自治体の政策アドバイザーを務める。合わせて、現在は壱岐市政策顧問、慶應義塾大学SFC研究所上席所員としても地方創生に関わっている。