人事プロフェッショナルへの道

働き方改革を成功させる経営と人事の役割とは

2016年06月10日

有識者、実務家による、人事プロフェッショナルを目指すすべての人向けの特別講義。Lesson5では、働き方改革をどのように推進し、成功させるのかを考える。

長時間労働体質の改善を中心とする働き方改革の機運が高まっている。組織の多様性が増し、時間制約のある働く人が増えた今、長時間労働でなくとも成果を出せるような働き方が、個人にも企業にも必要だからだ。
「働き方改革成功の必要条件の1つは、トップのコミットメントです」と明言するのはSCSKの小林良成氏だ。SCSKは2012年から働き方改革を進めており、深夜残業は当たり前といわれてきたシステムインテグレーション業界にありながら、平均月間残業時間20時間以下を実現している稀有な会社だ。
「当社の働き方改革は、そもそも当時の会長、中井戸の掛け声で始まりましたから、トップのコミットメントを得るために人事が苦労したわけではないのです」(小林氏)というものの、人事にはそれを周知させる役割もある。「こと働き方改革に関して、役員や従業員に『トップは本気ではない』と思わせてしまったら、変化は絶対に起こせない。トップの本気を、さまざまな形で社員に向けてメッセージする必要があります」(小林氏)

数値目標があって初めて工夫が生まれる

もう1つ欠かせないのは、数値による目標設定だ。「具体的な数値で労働時間に上限を設定すべきです。義務として課されることによって、初めて工夫が生まれるというのは少なからず真実ですから」(小林氏)。確かに、働き方改革が経営課題であるならば、「いつまでに」「どれだけ」という明確な目標がないほうがおかしい。
さらに、目標そのものにも工夫が必要だと小林氏は言う。「当社でもはじめは"年間実労働時間2000時間以内"を目標にしようとしたのですが、中井戸からストップがかかりました。行動レベルで何をすればいいのか具体的にわかるような目標を設定すべきだというのです」
そこで生まれたのが「スマートワーク・チャレンジ20」だ。平均月間残業時間20時間、有給休暇年間20日取得が具体的内容だが、2013年当時のSCSKでは、前年度より20%の残業削減、言い換えれば1日20分の残業削減でちょうど目標達成という計算にもなったのだ。「20というキーナンバーで多くのことが説明でき、しかも1日20分の残業削減なら、できそうな気がする。行動レベルでわかりやすい目標とはこういう意味でした」(小林氏)

変化を促す圧力と変化に対する安心を

SCSKの取り組みは、すべて組織単位で行われている。目標設定や施策を講じるのも組織ごとで、部下を早く帰らせる責任を持つのは組織長だ。「労働時間実績を共有する役員会議では、"タイムマネジメントはビジネスマネジメントの基本"と中井戸からの檄が飛びます」(小林氏)。部下を持つすべての人が、マネジメント能力を問われているのだ。その効果か、現場では、上司が部下の状況を把握し、改善をサポートするようなコミュニケーションが増えているという。
また、残業時間が増えるのに応じて、より上位階層からの承認を得なくてはならない仕組みもある。「長時間残業する人はすぐに経営陣の目に触れることになります」(小林氏)

このように、人事は変化促進の圧力になる仕組みを、主に管理職以上を対象に導入する。一方で、従業員が安心して変化できる仕組みの導入も人事の仕事だ。たとえば、浮いた残業代をインセンティブへと変えて還元すること、計画的な有休のほかに、不測の事態のときに気兼ねなく休めるバックアップ休暇制度や、30分単位で取得できる有休など、柔軟な勤務制度を整備することなどが含まれる。「それでも」と小林氏は言う。「まだ、早く帰ることが文化として根付いたとはいえません。手を緩めればすぐに逆戻りしてしまうでしょう」
働き方改革に近道はない。継続する力。これも必須条件の1つだ。

Text=Works編集部 Photo=平山諭

小林良成氏

Kobayashi Yoshinari SCSK 理事 人事グループ副グループ長、人事企画部長