若者の時代

同志社香里高等学校ダンス部

“勝つ”よりも大切なことがあるから音楽も振付も衣装も全部自分たちで決める

2018年06月10日

中学・高校あわせ約130人の部員を擁するダンスの強豪校。2017年8月に行われた第10回日本高校ダンス部選手権(ダンススタジアム)の全国大会において、ビッグクラス(13名以上で構成)にて4年ぶり5度目の優勝を果たした。CMやアーティストのプロモーションビデオに出演するなど、エンターテインメント業界でも注目を浴びている。
※(左から)橋本氏 川口氏 福山氏

2017年8月、高校ダンス部の日本一を競う「日本高校ダンス部選手権(ダンススタジアム)」で優勝した同志社香里高校ダンス部。創部10年の間に優勝5回というダンスの強豪校だ。校外のコーチの指導を受ける高校が多いなか、同志社香里ダンス部は、普段の練習から発表作品づくりまで、すべて部員だけで行う。日本一を勝ち取るダンス部はどのようにつくり上げられているのか?

聞き手=石原直子(本誌編集長)

2017年ダンススタジアムでの優勝作品「黒薔薇」。前年、有名なバブリーダンスで優勝した登美丘高校を抑えての勝利で話題となった。YouTubeなどで動画を観ることができる。

― 昨年のダンススタジアムでの優勝おめでとうございます。優勝作品の「黒薔薇」では高速な腕の動きで表現するWAACK(ワック)と呼ばれるダンスと、そのシンクロ度の高さが評価されたと伺っています。優勝後の秋に、新部長になられた川口さんも副部長のお2人も、黒薔薇のメンバーとして舞台に立ったそうですね。

川口紗依部長(以下、川口):大会での主要メンバーは昨年の3年生ですが、先輩たちはすごい人たちでした。学年によってカラーがあるのですが、先輩たちはいい意味で個性の強い人ばかり。お互いをすごく認め合っていて、さまざまな練習方法を取り入れて練習していました。優勝は先輩たちの努力の成果が認められたということだと思います。

― ダンス強豪校ではプロの振付師などに指導を仰ぐチームも少なくないそうですが、同志社香里ダンス部はすべてを自分たちだけでつくり上げていると伺っています。

川口:はい。それが私たちの特徴です。自分たちだけでつくり上げるからこそ、優勝のうれしさも負けたときのくやしさも大きい。それがうちのいいところです。

同志社香里は中高一貫校。6学年合わせると部員は130名を超える大所帯だ。写真は、高校2年と3年の部員約40名。

― 具体的にどうやって演目をつくっていくのですか?

川口:最初はみんなそれぞれに踊ってみたい曲を探してきて、なぜその曲なのか、何を表現したいのかを提案していきます。そこから多数決を取って決めているのです。
橋本里香副部長(以下、橋本):曲を絞り込む過程で演目のテーマも決まっていきます。最初は『壮大なイメージ』『大自然のイメージ』といった、かなり大ざっぱなところから始まります。実は「黒薔薇」も最初は「台風」というテーマでした。みんなで何をしたいのかを話し合っていくなかで「黒薔薇」に変わっていったのです。その後、振付や衣装も自分たちで決めます。

― それができる実力の人たちが集まっているのですね。大会に出場するメンバーはどのように選出しているのですか?

川口:これもオーディションを行って、全員が全員を採点して決めています。ここがいちばん気持ちが引き締まるときですね。なかなか意見がまとまらないこともありますが、それでも顧問の先生や部長が決める、ということはありません。最後まで話し合って決めていきます。

― みんなが納得するまで話し合うというスタンスは、見事なシンクロのダンスにもつながっている気がします。

川口:みんながどれだけ同じ動きをしていても、気持ちがバラバラでは1つになりません。「何かを我慢している」状態の子がいないことが、大切なんです。普段から、気持ちが沈んでいたり悩みを持っている子がいたら、気に留めて声をかけ、みんなが万全の状態で本番に臨めるように心がけています。

仲間との強いつながりがダンス部を支える

― その役割を担う部長は重責ですね。川口さんが部長になったのはどうしてですか。

川口:部長は、中高全部員が全学年のなかから投票で決めています。昨年、部長に選ばれたときは、プレッシャーで泣いてしまいました......(笑)。中学でも部長を経験していましたが、そのときは高校生が上にいた。でも今回は自分が全部員のいちばん上になる。加えて、「去年優勝したチーム」という目で周りから見られている。不安と責任の大きさに押しつぶされそうでした。

シンクロ度の高さが特徴の同志社香里のダンスだが、それぞれのダンスには個性がある。「川口部長(中)のダンスはなめらかでしなやか。どんなジャンルのダンスでも表情が豊かで見る人を引き込む力がある」「福山副部長(右)は、音楽が体の動きから見えるところがすごい」「橋本副部長(左)はダンスがダイナミック!」

― 副部長のお2人から見て、川口部長はどんな人でしょう。

橋本:川口部長は、人一倍、周りを見ていて、何かに気づくのが部員のなかで誰よりも早い。小学生になる前からダンスを始めていて知識もあり、率先して人を引っ張っていける人です。
福山楓乃子副部長(以下、福山):部員も100人以上いたらいろんな意見の人がいます。川口部長は、少数派の意見も多数派の意見も全部踏まえたうえで「こうしたほうがいいんじゃないか」と提案できるのがすごい。誰もが納得できる意見を出してくれるんです。

― 川口さんにとって副部長の2人、同級生たちはどんな存在なのでしょうか。

川口:副部長の2人は、いつもみんなの中心にいるムードメーカー的存在。常に笑顔で、暗い雰囲気を自分から出さないんです。部長になって不安もありましたが、2人が副部長になってくれてよかった。そして同級生のメンバーの存在も大きいです。私が部長の仕事で忙しいときは、部活を引っ張っていってくれるし、悩んでいるときも察してくれる。いつも支えてくれる仲間がいるから心強いです。

身近な人に認められる存在になることが大切

― 全国に数あるダンス部のなかで優勝できるチームに必要なこととは何でしょうか。

川口:いちばん近くにいる、家族、先生、後輩、地域の人たちに認められることだと思っています。私たちは自分たちの力だけで優勝することは絶対にできません。保護者にお金を出してもらって衣装をつくっていますし、大会の遠征もさせてもらえる。両親にはありがとうという気持ちをいちばんに持っていたい。そして学校が応援してくれて、顧問の先生も自分の時間を割いて同行してくれるから全国大会に挑める。みんなのおかげでダンス部が成り立っているわけですから、私たちはみんなに認めてもらって、恩返しをしなければいけないと思っています。ダンススタジアムといった大会だけでなく、学校のイベントや、地域のイベントにも積極的に参加するようにしています。年間を通して出演イベントが多いので、いつもスケジュールに追われていて忙しいのですが(笑)、部員たちが舞台を経験する機会を増やすことにもつながっています。
橋本:ダンスはサッカーのように目に見える得点ではなく、見ている人や審査員の心をどう動かすか、という競技。同じ動きでも、思い入れや感情がバラバラだと見ている人には届かない。みんなが同じ気持ちで挑むことが大事だと思っています。
福山:私たちはみんなダンス部の仲間が好きという気持ちが根本にあって、その仲間と踊れる喜びから楽しいという感情が生まれる。それが表現に表れて、見ている人に伝わるのだと思います。

仲間との時間がそれぞれの宝物になる

― みなさんはダンスに捧げる日々を過ごしています。ダンスの魅力とはどんなところにあるのでしょうか。

福山:ダンスは言葉がなくても世界中の人に通じる、といわれています。どんな国にも踊りがあり、初対面の人でもダンスで通じ合えて仲良くなれる。どんな人ともコミュニケーションがとれるのがすてきだなと思っています。

コーチがいない同志社香里ダンス部では、上級生が下級生にダンスを指導し、全員で技術を磨いていく。

― みなさんは高校卒業後もダンスを続けていくのでしょうか。卒業後をどのように考えていますか?

橋本:私は、ダンスは続けないと思います。将来の夢に生かせるような新しいことを積極的にやってみたいですね。
福山:今まででいちばん熱中できたものがダンス。ダンスを続けて、新しいジャンルのダンスにも挑戦してみたいと思っています。
川口:大学ではダンス以外のこともやっていきたい。でもダンスをやめてしまう自分も想像できなくて、結局は続けているかもしれません。ほかの部員たちのなかには、ダンスそのものよりも、ダンス部が楽しい、仲間と一緒に1つのことに取り組む時間が楽しいという人もたくさんいます。ですから、卒業後にダンスを続ける人、やめる人、それぞれですね。

― 最後に今年の目標は?

全員:ダンススタジアムの2連覇を目指します!

Text=木原昌子(ハイキックス) Photo=塩崎聰

After Interview

バレエやジャズダンス、創作ダンスなどと異なり、ストリートダンスには「学校」は似合わない、ような気がしていた。その名の通り学校以外の場で熱中するもの。その踊り手も、いわば「アウトロー」な若者たちというイメージだ。
同志社香里高校ダンス部で私たちに話を聞かせてくれた3人に、「アウトロー」感は、はっきり言ってゼロだ。丁寧な言葉づかいでゆっくり考えながら話し、困るとお互いに顔を見合わせる。可笑しいところころ笑いながらも、一生懸命質問に答えてくれる、明るい女子高生たち。
だが、彼女らのダンスを見て、再び予想を裏切られることになる。極限まで練習を重ねたことが明らかにわかる、指の先まで揃った超スピードのうねりと、圧倒的な力強さ。
私たちはいつも、こんな風に良い意味で裏切られたいと若い人たちに期待している。親や学校への感謝までさらりと口にする彼女らを見ながら思う。期待するなら、私たち大人は、何をすべきだろうか。

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