Next Issues of HR ブレインテックの可能性と課題
第2回 ビジネス、人事に関わるブレインテック
前回はブレインテックをめぐる概況について解説しました。第2回の今回は、読者の皆さんにとってより身近な、ビジネスや人事に関係し得るブレインテックについて紹介します。
既に始まっているサービスの1つがニューロマーケティングです。光トポグラフィーという技術を用いたものがその一例です。頭部に専用のBMI(※)機器を装着し、近赤外光で脳の血流状態を測定して、消費者の脳が商品や広告のデザイン・色などにどのように反応しているかを調べるというもので、それを実際の商品開発や広告宣伝に活かす事業を展開する企業が国内でも出てきました。アンケートなどよりも高い精度で消費者の本音がつかめるので、ビジネスの世界でも注目度が高まっています。
人事領域では、既に海外で新しいサービスが生まれています。その1つが、頭部にヘッドフォン型やヘッドバンド型のBMI機器を装着して、仕事中の頭脳労働者の脳波を測定し、集中度を可視化するというもの。米国のニューラブル、Brain Co.といったスタートアップがこのような事業に取り組んでおり、中国では、学校で生徒が授業に集中しているかを測るためにこうしたテクノロジーが利用されています。
また、米仏に拠点を置くドリームというスタートアップは、BMIを用いて睡眠の質を改善するサービスを提供しています。ヘッドマウント型BMI端末で睡眠時の脳の状態を測定し、専用のアプリで分析。それに応じて端末から軽微な音波を発信して、脳の特定の領域を刺激することでより良い眠りに導くというものです。
睡眠の質程度ならともかく、仕事中の集中度の管理となると、頭の中を覗き込まれ監視されているような気がして抵抗感を覚える人も多いでしょう。しかし、いずれ導入事例が増え、社員のコンディションを整えるというメリットが明らかになれば、人々の抵抗感を乗り越え、浸透していく可能性もあるでしょう。
さらに、まだ実用化まではいかない開発途上のテクノロジーのなかにも、企業で応用される可能性をもったものがあります。
たとえば、米国国防総省傘下のDARPA(国防高等研究計画局)では、BMIを活用したさまざまな研究に取り組んでいます。その1つが、脳を刺激することで記憶力を高めるテクノロジーで、既に人を使った実験の段階に進んでいます。また、装着した兵士同士がテレパシーのように思念だけで交信できるヘルメット型のBMI装置の開発も進められているといいます。いずれも開発が実用レベルまで進めば、関心を抱く民間企業も現れることでしょう。
また、日本の理化学研究所では、外部から脳を刺激して記憶を操作する技術の研究開発に取り組んでいます。今はまだマウス実験の段階ですが、いずれこのテクノロジーが実用化されれば、人の学びというものが根本的に変わる可能性を秘めているといえるでしょう。
(※)ブレイン・マシン・インターフェース。脳と機会を直接つなぐ技術
小林雅一氏
KDDI総合研究所 リサーチフェロー
情報セキュリティ大学院大学 客員准教授
日経BP記者などを経て現職。著書に『ブレインテックの衝撃─脳×テクノロジーの最前線』(祥伝社新書)、『AIの衝撃─人工知能は人類の敵か』(講談社現代新書)など。
Text=伊藤敬太郎 Photo=小林氏提供 Illustration=ノグチユミコ