クールじゃないジャパン

なぜ日本では、論理と証拠がこんなにも重視されないのか?

2018年08月10日


日本人はものごとを感覚的にとらえ、論理的思考を怠りがちだというのが、国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社の社長であり、アナリストとして日本経済や経営に関する著作も多いデービッド・アトキンソン氏の見立てだ。
「日本人は、『織田信長は女性だった』や『日本人は農耕民族だから粘り強い』といった根拠に乏しい仮説を簡単に受け入れてしまいます。論理的帰着点をきちんと探すより、目新しい、あるいは聞き心地がよい結論に飛びついてしまう傾向があるようです」特に目立つのが、「日本は特別な国だ」という十分に検証されていない話を信じ込む態度だ。
「日本は戦後の焼け野原から立ち直り、1970年代に先進国の仲間入りをしました。多くの日本人は、その理由を『勤勉さと技術力』に求めますが、事実は異なります。1939年当時の日本経済は、既に世界6位の規模でした。第二次世界大戦による被害は大きかったのですが、そこから回復した後は、先進国中トップクラスだった人口がさらに増えて経済成長をもたらしました。ところが、『日本は特別』だと思いたがる人は、客観的な事実から目を背けます」
今、日本ではどの国も経験したことのない人口減少が進む。一方、増え続ける高齢者を養うため、日本は現在の経済規模を維持しなければならない。それらの事実を基に考えを進めれば、労働者1人あたりの生産性を高めるべしという結論が自然に導き出されるだろう。ところが、日本や日本企業の将来を考えるべき役人や経営者、学者などのなかには、「日本は特別だから」と言い訳をして生産性向上への議論を拒む人が少なくないと、アトキンソン氏は指摘する。さらに危険なのは、総論に賛成しても、具体策にはすべて反対する人たちがいること。その結果、問題の解決が遅れて、取り返しのつかない事態を招こうとしているのだ。
「必要なのは、苦しくても目の前の課題を正面から見ること。そして、きちんとしたデータに基づき、因果関係を確かめながら深く考え抜くこと。そのうえで、本気で生産性向上に取り組むことが重要なのです」

Text=白谷輝英Photo=平山 輪

デービッド・アトキンソン氏

David Atkinson イギリス生まれ。オックスフォード大学卒業後、1992年にゴールドマン・サックスに入社。2009年、小西美術工藝社に入社し、2011年から代表取締役社長に。日本政府観光局特別顧問も務める。著書に『デービッド・アトキンソン新・生産性立国論』(東洋経済新報社)など多数。