人事変革のバディ

アフラックの人財の力を引き出す人事制度改革

2022年08月10日

改革の責任者
w173_bady_morimoto.jpg森本晋介氏 Morimoto Shinsuke
常務執行役員
大学卒業後、1988年にアフラック(現アフラック生命保険)入社。西日本保険金部長、コンプライアンス統括部長、法務部長、経営企画部長などを経て、2019年1月、執行役員に就任。2021年1月より常務執行役員を務める。

改革の牽引者w173_bady_ito.jpg
伊藤道博氏 Ito Michihiro
執行役員
大学卒業後、1995年にアフラック(現アフラック生命保険)入社。2019年、アジャイル推進室の初代室長を務めた後、人事部長、人財戦略部長を経て2022年6月、執行役員に就任。また、アフラック・ハートフル・サービス代表取締役に就任。

人財マネジメントに関する抜本的制度改革を行ったアフラック生命保険。職務等級制度を基軸とした新たな仕組みを構築し、2021年1月には役員・管理職へ、翌年1月には一般社員への適用を開始し、今、大きな山を越えたところだ。これを実現したのが今回のバディ、常務執行役員の森本晋介氏と執行役員(人財戦略部長・当時)の伊藤道博氏である。

この制度改革は、数ある経営戦略のなかでも優先度が高いものだった。もともと同社には「人財を大切にすれば、人財が効果的に業務を成し遂げる」という考え方が創業時から受け継がれ、コアバリュー(基本的価値観)として根付いている。中期経営戦略で成長戦略や財務戦略より先に人財マネジメント戦略が挙げられているのは、その表れである。根底にあるのは「人の成長こそが企業の成長につながる」という強い確信だ。

実は同社では、2000年代初頭にも職務等級制度を導入したことがある。両氏とも、当時の担当者だった。社長室の所属だった森本氏が制度設計を担い、伊藤氏は人事部として運用する側にいた。「残念ながら、このときは制度を理念通りに定着させられずに数年で終わりました。制度運用時に起きることを私自身がしっかりと考え尽くしていなかったのです。理論設計すれば人は動くはずだと思いこんでいたことが、反省点として残りました」と、森本氏は振り返る。

とはいえ、意欲ある人の活躍を促すためにも、成果に直接報いる仕組みは重要だ。近年は変化のスピードが増し、競争も厳しくなるなか、多様な人財の自律的な活躍を支える制度がいよいよ必要になってきた。そのために経営が強い意思を持って打ち出したのが、今回の制度改革だ。

運用に耐え得るレベルに制度をブラッシュアップ

前任者から引き継ぎ、森本氏が本件の担当となったのが2020年7月。管理職への制度導入まで半年を切っていた。「今回の制度改革は、以前の反省もあって、社長をトップとする上級役員によるプロジェクト形式で推進し、役員の制度へのコミットメントと現場感覚を確保したものになっていました。一方で、制度運用上の細かい検討が不十分に思えました。また、リリースまで期限が迫るなか、社内のエンゲージメントを十分に高めていくには待ったなしの状況でした。そのとき即座に私の頭に浮かんだのが伊藤さんだったのです」(森本氏)

しかし、当時の伊藤氏は人事部所属ではなく、会社の重要施策の1つ、アジャイル型の働き方を全社に展開する「アジャイル推進室」という新組織で初代室長として活躍していた。「この新しい挑戦は道半ばで、話を聞いたときは正直迷いもありました。ただ、尊敬する森本さんからの依頼は断れません(笑)。全幅の信頼を置いて任せてもらうからには、期待に応えたいと思いました」(伊藤氏)。「伊藤さんの上司が、人事部への異動を快く受け入れてくれたことが最大の成功要因」と森本氏が語るように、2人のコンビネーションで改革は一気に前進していった。

伊藤氏は、50 〜60人を擁する人事部(当時)を取りまとめ、各種シミュレーションを行いながら、運用を意識して制度の詳細案を設計していく。同時に、社員に制度改革の本質を理解してもらうために丁寧なコミュニケーションを重ねていった。トップからのメッセージ発信や説明会の開催、社員一人ひとりへの処遇の個別通知までやることは山ほどあった。

「人事のチーム総出で取り組まないと間に合わない。常に顧客視点を持ち、柔軟かつスピーディな対応という前部署で培ったアジャイルのエッセンスを導入しました。厳しい局面だからこそ、メンバーには情熱を持って声をかけ続けました」(伊藤氏)

経営陣との徹底した討議で信任を取り付ける

一方、社長をトップとするプロジェクトメンバーの一員として森本氏は取締役会に挑んだ。「内容が伴わないものは絶対に承認されない」という取締役会において、毎回、いかにこの制度がアフラックにとって合理的か論拠を持ってプロジェクトメンバーを代表して説明し、形式ではない徹底した議論を行った。予定時期までに取締役会の承認を取り付けることができたのは、伊藤氏が来てくれたおかげだという。「伊藤さんには飛び抜けて実行力があり、しかも常に想定を超えた仕事をしてくれます。理念を外さず、運用を考えて緻密かつ柔軟な制度に仕立てるところは、まさに真骨頂。思いを伝えてメンバーを鼓舞していく姿は、常に頼もしいリーダーだと感じます」(森本氏)。その言葉に伊藤氏は、「それも森本さんが難しい調整をこなし、経営陣との信頼関係を構築してくれたから」と呼応する。「これだけプレッシャーのかかる案件でも、いつも穏やかで怒ったところを見たことがありません。まさに会社のコアバリューを体現している先輩です」(伊藤氏)

経営と現場双方の理解を得て、新制度が導入された。重要なのはこれからだ。今、2人が目指しているのは、この新しい仕組みの下、社員一人ひとりが成長を続け、よりよい会社を作り上げていくこと。改革はスタートしたばかりだ。

Text = 瀬戸友子  Photo = 刑部友康