AI のお手並み拝見

自律移動

ロボットは警備ができるのか

2018年10月10日

人手不足対策の一環として、自律移動ロボットが注目されている。自律移動とは、人間が操縦しなくても、ロボット自身が環境を把握し単体で移動する技術である。自動走行車や掃除ロボット、物流倉庫で使う搬送用ロボットなど幅広い分野で応用されているが、なかでもニーズが高まっているのが警備ロボットだ。深刻な人材難に加え、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、実用化が急がれている。
ロボットが自律移動するには、周囲の状況をセンサーで検知して、その情報をもとに全体地図を作成し、自分がどこにいるか、正確な位置を把握することが必要になる。この自己位置推定と環境地図作成を同時に行うことをSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)といい、自律移動には欠かせない技術の1つだ。
GPUと呼ばれる3Dグラフィックスの表示に必要な計算を高速処理するプロセッサや、3次元で空間を認識できるセンサーの登場により、近年こうした技術の精度が高まりつつある。警備ロボットの開発を手掛けるSEQSENSEの中村壮一郎氏は、「ようやくハードウェアの機能が追いついてきた」と手応えを口にする。しかし、警備ロボットの実用化には、技術革新だけでは不十分だという。

ロボットがすべき業務を明確に定義する

「ロボットは何ができるかの前に、そもそもロボットに何をさせるのか。大切なのは、警備の仕事の本質を突き詰めて、ロボットに求められる仕事を明確にすることです」
まずは従来の警備の業務を根本から見直すことが重要だ。「エントランスでの立哨警備は負担が大きいのでロボットに切り替えよう」などと安易に判断するのではなく、この立哨警備にどれだけ効果があるのか、そもそも必要なのかを見極める。
そのうえで必要な業務については、人が担うべきか、ロボットに任せるべきか切り分けを行う。たとえば、複数のモニターを監視するような業務は、体調や集中力に波のある人間よりも、ロボットのほうが適しているかもしれない。しかし、「財布が落ちていれば落とし物だが、紙袋が落ちていれば不審物とみなす」など、何が正常で何が異常かの線引きは、人間がしたほうがよいだろう。
このようにロボットに任せる業務を明確に定義していけば、必要な機能も自ずと決まってくる。ロボットがすべてを担う必要はないし、何でもできるロボットを作る必要もない。「警備ロボットは、車輪で走行するタイプが主流であり、二足歩行の人型ロボットは見当たりません。技術的にもコスト的にもハードルが高い二足歩行を導入するよりも、車輪走行でスムーズな自律移動を実現するほうが合理的だからです」
実際、警備業務のほとんどは、防火シャッターの下に荷物が置かれていないか、消火器が正しく設置されているかなど、確認作業が中心となる。SF映画のように人型ロボットが不審者を追跡・制圧することは現実には考えにくい。
施設内を巡回して確認作業を行う分には、ほぼフラットなフロアを移動できれば問題ない。階段の上り下りができなくとも、車輪走行で3センチくらいの段差を越えられ、エレベーターに乗ってフロアを移動できれば十分対応可能だ。

警備ロボットが日常に溶け込んでいく

さらに、社会的な環境作りも重要だ。警備ロボットの活躍には、自在に動き回れるようなインフラ整備が必要になる。最近では、スマートビルディング構想の一環として、最初からAIやロボットの導入を前提にした建物作りも進んでいる。
また、フロアを動き回るロボットを受け入れられるように、人間側の教育も必要になるだろう。
「実証実験などを行うと、物珍しさから子どもたちに取り囲まれることも多いのですが、ロボットが"悪目立ち"するようでは仕事になりません。フロアを行き交っていても、誰も気に留めないくらい、一般の方々がロボットに慣れるといいですね」
警備員と警備ロボットが協業する光景が当たり前になったときこそ、警備ロボットが本当に役に立つ存在になるときだ。

Text=瀬戸友子 Photo=平山諭 Illustration=山下アキ

中村壮一郎氏

SEQSENSE代表取締役CEO。

Nakamura Soichiro 京都大学法学部卒業。東京三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)、シティグループ証券、Citigroup Global Markets Inc. (NewYork)を経て、独立。コンサルタントとして中小企業向け融資や、企業買収に関わるファイナンス業務に従事。2016年、SEQSENSEを設立し、現職。