非正規雇用の正規転換と無期転換―労契法と派遣法の改正、コロナ禍を通じて変わったか 小前和智
2013年施行の改正労働契約法、2015年施行の改正労働者派遣法により、非正規雇用として働く一部の人々には(正規転換を含む)雇用の安定を図る措置が講じられるようになった。これらの法的な効果が期待されるなか、新型コロナウイルス感染症の大流行が発生した。法規制とパンデミックが影響を及ぼした5年間の非正規雇用の正規転換と無期転換の実際をみていこう。
まず、非正規雇用者数の推移を確認しよう。総務省「労働力調査」によると、2021年における非正規雇用者数は2064万人(前年比-26万人)と前年から減少し、非正規雇用者比率も36.7%(同-0.5%)となった(図1)。非正規雇用者数は長期的には増加傾向が続いてきたが、2019年からは減少に転じている。
図1:非正規雇用者数・比率
出所:総務省「労働力調査」
リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)」を用いて、有期雇用として働く非正規雇用者の正規雇用への転換割合と無期雇用への転換割合を算出した(図2)。正規転換割合をみると、3~4%台でほぼ横ばいの推移であった。他方で、無期転換の割合は2016年の4.0%から2018年に7.5%まで上昇し、その後7%台で推移している。労働契約法や労働者派遣法の改正を受け、有期雇用から無期雇用への転換が進んだようだ(※1)。
図2:有期雇用で働く非正規雇用の正規転換・無期転換割合
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)」
注1:対象は呼称上非正規雇用と分類され、かつ有期雇用で働く既卒者。
注2:ここでいう正規転換・無期転換とは、前年に勤めていた会社で就業継続し、かつ呼称上の正規雇用あるいは労働契約上の雇用期間の定めなしに転換された割合である。
注3:ウエイトとして連続する2か年の脱落ウエイトを使用。
それでは、正規転換、無期転換によって処遇に変化はあったのだろうか。図3では、前年に有期だった非正規雇用者を、そのままの状態で就業継続した人、正規転換した人、無期転換した人に分けて、前年からの年間収入の変化を比較した。年によって変化額に多寡がみられるものの、同じ会社で働き続けることで年間収入は増える傾向にある。ただし、そのままの状態で就業継続した場合と無期転換した人は、その増加は年間で多くても10万円程度までにとどまる。他方で、正規転換した人では30万~50万円程度の増加がみられた(※2)。
図3:正規転換・無期転換と年間収入の変化
出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)」
注1:対象は呼称上非正規雇用と分類され、かつ有期雇用で働く既卒者。
注2:ここでいう正規転換・無期転換とは、前年に勤めていた会社で就業継続し、かつ呼称上の正規雇用あるいは労働契約上の雇用期間の定めなしに転換された割合である。
注3:ウエイトとして連続する2か年の脱落ウエイトを使用。
以上、2010年代後半から2020年代前半にかけての正規転換と無期転換についてみてきた。この時期は、法改正の影響と考えられる有期雇用の無期転換が進み、新型コロナウイルス感染症の流行を通じても無期転換割合は高い水準を維持している。ただし、正規転換割合は、横ばいが続いている。
他方で、正規転換者と無期転換者の間には、収入の増加の面で大きな差がみられた。そこからは現在の非正規雇用の無期転換では解消できていない課題がみえる。無期転換には、雇用者にとって不安定な状態が長期にわたることを回避する重要な役割がある。ただ、法的な拘束力のもとでの無期転換が非正規雇用者のスキルアップや活躍の機会がないまま実施されるとすれば、無期転換が会社にとって過度な負担となり、無期転換の義務が生じる前のごく短期での雇止めを誘発させる可能性もある。そうならないよう、より長期的な人材育成や配置の見通しとセットで非正規雇用の処遇改善が図られるべきだろう。
※1:2016~2020年のJPSEDデータを用い、働き方改革の進展をみていくコラム「日本の働き方、3つの進化(2)非正規雇用者の無期転換は進んだのか?」では、非正規雇用の無期転換に焦点をあて、性別や産業別に分析している。
※2:正規転換可能性と正規転換の前年の収入・賃金の関係については、コラム「非正規雇用の処遇を統計的に考える」で分析している。フルタイムで働く非正規雇用の場合、収入や賃金が高い層のほうが正規転換しやすい結果が観察された。それと合わせれば、本コラムの図3の結果は、単に正規転換したから収入が増えるわけではなく、正規転換に至った当該雇用者に対する会社からの期待や非正規雇用として働いていた際の評価の高さなどが重要な要素になっていると考えられる。この点を論じるにあたっては、より精緻な分析が必要になる。
小前和智(研究員・アナリスト)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
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