労働時間の減少は、手待ち時間の削減によるものか 久米功一
【このコラムのPDF版はこちら】
長時間労働の是正は、働き方改革の最優先課題のひとつであり、その方策は多種多様である。昨年のコラムでは、仕事の質の違いとして、仕事時間に占める本来業務、周辺雑務、手待ちの割合に着目した労働時間削減策を提案した。そこで、とくに手待ち時間の割合の高い職種に着目して、「全国就業実態パネル調査」でこの1年の進捗をみてみよう。
全体で手待ち時間が減少、労働時間も減少
2016年から2017年にかけて、雇用者の週労働時間は0.2時間減少している(表1)。仕事割合は、本来業務は4.7ポイント増、周辺雑務3.1ポイント減、手待ち時間は1.6ポイント減である。平均的にみて、周辺雑務や手待ちを減らし、本来業務に注力することによって、週労働時間を削減するという「集中ボーナス」を享受しているといえる。
職種によって、異なるアプローチ
ほとんどの職種で手待ち割合が減少したが(図表2)、その実態は多様だ。以下、裁量と処理量(※注) の増減にも触れながら、4つに分類して考察する。
タイプ1 運転: ドライバー(タクシー・ハイヤー)は、手待ち時間の割合が最も高いにもかかわらず、1年で割合が増えている。リアルタイムの配車など、新技術の導入が不可欠だ。人手不足の物流を支えるドライバー(バン・ワゴン、トラック)の労働時間は横ばいまたは微増である。取扱個数の調整だけでなく、再配達の解消などのラストワンマイルの効率化も望まれる。
タイプ2 接客: 宿泊施設接客や和食調理師、すし職人は、手待ち時間の割合を減らして、労働時間を削減できている。裁量が高まり、処理量も減少している。想像ではあるが、外国人観光客の増加などに伴うサービスの改善の中で、働き方の見直しも進んでいるのではないだろうか。
タイプ3 営業: 営業職で週労働時間の減少幅が大きいのは、保険営業、電気・電子機器営業(ともに1.1時間減)である。手待ちの削減に加えて、裁量が高まっている点が共通している。現場の裁量をいかに増やせるかが、営業における働き方改革のカギといえる。
タイプ4 警備・受付など: 警備、守衛、ビル・駐車場などの管理のように、特定の場所と時間に従事する職種では、手待ち割合は減少したが、週労働時間が微増していた。高度なセンサーを活用したモニタリング業務の自動化などで、場所・時間からの解放が求められる。
手待ち時間の背景には、職種固有の課題がある。だからこそ、手待ち削減をきっかけに、現場の工夫から商慣習の見直し、新技術の導入まで、多様な視点で働き方改革に取り組む必要がある。
注)裁量「自分で仕事のやり方を決めることができた」 処理量「処理しきれないほどの仕事であふれていた」 について「あてはまる5~あてはまらない1」で得点化したもの。
久米功一(東洋大学経済学部准教授)
※本稿は「Works Index 2017」に掲載されているコラムの転載(一部調整)です。
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。