家事時間(後編) ―妻の家事時間を短くさせるカギ 孫亜文
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女性の家事負担を減らすには、夫のサポート以外も必要
女性が結婚・出産を経験したのちも、働き続けられる社会を実現するためには、夫のサポートが不可欠であるとされる。しかし、前のコラムで確認したように、女性の家事時間を減らす手立てとして、男性の家事時間増加を目標に掲げても、その実現は容易ではない。よって、男性の積極的な家事従事に期待するにとどまらず、ほかの方法も模索する必要があると考える。本コラムでは、夫のサポートを除いた、女性(妻)の家事時間を減らす方法を探っていく。
家事を重荷に感じていない理由はヒントになる
家事は毎日行われる繰り返し活動でもある。そのような繰り返し活動を重荷に感じている人もいれば、いない人もいるだろう。「全国就業実態パネル調査2018」では、「あなたは、ふだん家事を重荷に感じていますか」の質問に対し、「全く感じていない」「ほとんど感じていない」「あまり感じていない」「感じている」「強く感じている」の5段階で回答を得たうえで、重荷に感じている場合といない場合のそれぞれに対し、その理由を聴取している。
夫婦ともに雇用者として働いている男女について、家事の重荷感別の平均的な1日(働いている日)の家事時間をみてみると、男女ともに家事の重荷感が減るにつれて、家事時間も短くなっている。家事を重荷に感じていない人は、家事時間を短くする方法を知っているのではないだろうか。家事を重荷に感じていない理由を探ることで、女性の家事時間を減らすヒントがみつかるかもしれない。
図1 家事の重荷感別の平均家事時間
※ウェイト値(x18)を用いたウェイトバック集計。
重荷に感じていない理由、「時短テク」よりも「適度に手抜き」のほうが多い
家事時間を短くするというと、まず思いつくのが時短テクや第三者(家事代行サービスなど)の活用だろう。家事を重荷に感じていない人は、もしかしたらこれらをたくさん利用しているから、家事時間も短く重荷も感じていないのかもしれない。
図2の家事を重荷に感じていない理由をみてみると、多くの女性が挙げていた理由は、「適度に手抜きをしているから」であった。時短テク(家事時間を短縮させるノウハウを持っているから)や第三者の利用(家事代行サービスなどを利用しているから)は思ったよりも少ない。確かに、適度に手抜きをするほうが、家事のために新たなテクニックを身につけたり、代行サービスを利用したりするよりも、手間も費用もかからず気軽であり、家事を重荷に感じにくいだろう。では、適度に手抜きをしている人は、していない人よりも、本当に家事時間が短いのだろうか。
図2 家事を重荷に感じていない理由(複数回答)
※クリックで拡大します
※ウェイト値(x18)を用いたウェイトバック集計。
「適度に手抜き」は家事時間減少に寄与する可能性あり
「適度に手抜きをしているから」は、家事を重荷に感じていない人に対して聴取している理由であり、家事を重荷に感じている人には、おおよそ相反するものとして「家事をしっかりとやりたいから」を聴取している。そこで、この2つの理由を用いて、夫婦ともに雇用者として働いている男女を、以下の3パターンに分類した。
①家事を重荷に感じていて、その理由として「家事をしっかりとやりたいから」と回答した場合=家事をしっかりとやりたい
②家事を重荷に感じているが、その理由として「家事をしっかりとやりたいから」とは回答していない、もしくは家事を重荷に感じていないが、その理由として「適度に手抜きをしているから」とは回答していない=どちらでもない
③家事を重荷に感じていなくて、その理由として「適度に手抜きをしているから」と回答した=適度に手抜きをしている
図3は、上記の3パターン別に平均家事時間をみたものである。「家事をしっかりとやりたい」女性と比べると「適度に手抜きをしている」女性は、1日平均36分家事時間が短い。男性でも1日平均29分家事時間が短い。詳細な記載は割愛するが、家事を重荷に感じていない男女に限定した推計でも、「適度に手抜きをしている」は「配偶者や家族と分担している」に次いで家事時間を短くさせるという統計的に有意な結果を得ている(※注)。「適度に手抜き」は、女性の家事時間を確かに短くさせていることがわかる。
図3 「適度に手抜き」をしているかどうか別の平均家事時間
ところで、家事を重荷に感じている理由をみてみると、唯一男性のほうが女性よりも割合が高い理由があった(図4)。「家族から求められる要求水準が高いから」である。妻が当たり前にこなしているからといって、普段家事をしない夫がこなせるとは限らない。家事初心者の夫に高い理想を求めることで、男性の家事従事へのモチベーションを下げてしまうかもしれない。また、普段から家事をしている女性にとって、夫からの高い要求はプレッシャーとなり、より多くの時間を家事に費やすことにつながるかもしれない。家事時間短縮の実現のためには、お互いの理想を押しつけないことも大事ではないだろうか。
図4 家事を重荷に感じている理由(複数回答)
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※ウェイト値(x18)を用いたウェイトバック集計。
自分にも相手にも甘くなれば、家事時間は短くなる
家事時間の長さは、女性の就業を阻む壁としてそびえたっている。その壁を乗り越えるためには、男性がより一層家事に積極的になる必要があるのは明白だ。だからといって、男性の家事に対する姿勢が劇的に変わるわけではなく、長い道のりを歩むうえで、女性の家事時間を短くさせる方法をそれ以外に求める必要もあるだろう。その一つとして、家事に対する適度な手抜きを挙げたい。
毎日行う活動だからこそ、適度に手抜きをし、メリハリをつけることで、女性自身の家事への束縛を緩めることができるのではないだろうか。また、自分だけでなく、相手にあまり理想を押しつけないことも大事になるだろう。女性の家事時間を短くさせる第1のカギが、男性の積極的な家事従事であるならば、自分にも相手にも甘くなることが第2のカギではないだろうか。
注:家事を重荷に感じている男女の推計でも、「家事をしっかりとやりたい」女性は家事時間が長くなるという結果を得た。
孫亜文(リクルートワークス研究所/アナリスト)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。