【小売業編】現場の声。高校卒採用が直面する「課題」と「これから」

2020年11月05日

大学卒採用と比較しても高い求人倍率となっている高校卒の採用。古くは「金の卵」と呼ばれ、長らく日本企業の若手人材の獲得を支えてきた仕組みだ。現在も強いニーズがある一方で、変わらぬ仕組みにより、現場に“きしみ”が生まれている事例も少なくない。

採用を行う現場はこの状況をどのように捉えているのか。私たちは、高校卒の採用を行う企業の人事・採用担当へのインタビューを実施。第1回は小売業の企業の本音に迫る。

(聞き手:リクルートワークス研究所 古屋星斗、坂本貴志)

【参加各社の概況】
A社:首都圏を中心にスーパーマーケットを展開する小売チェーン。今年の高校卒採用数は、25名。高校卒・大学卒ともに総合職採用を行う。

B社:全国展開する老舗百貨店。高校卒の採用は、毎年5~9名ほど。ビルの保守・管理を行うビルメンテナンス職を募集している。

なぜ高校生を採用するのか?

──はじめに、高校卒採用の目的を教えてください。

A社:目的は「組織の活性化」です。戦後の「大量採用」の流れをくみ、人数は前後しますが毎年25名ほど高校生を採用しています。

B社:A社さんと同じく、私たちも組織の老朽化を防ぎ、人材の多様性を保つために毎年5~9名ほど高校卒の採用をしています。数十年前からビルのメンテナンス職のみ高校生を募集してきましたが、2000年ごろを境に10年ほど採用を中止していました。
しかし、組織の「次」を担う20代~30代がすっぽり抜けてしまったため、2014年に新卒採用を再開。重機を扱う専門職なので、工業高校の生徒を中心に受け入れています。

──大学卒採用と、採用数や職種に違いはありますか。 

A社:大学卒採用数は毎年100名程度です。大学生の選考は6月ごろに内定が出揃うため、そこから高校卒の採用数を決めています。大学卒・高校卒を問わず、現場(スーパーの売り場)からスタートする総合職を募集。経営企画や人事といった一部の職種は大学卒を中心に構成しています。

B社:弊社はビルメンテナンス職を高校卒から、大学卒は販売含む総合職を50名程度採用しています。募集職種が違うため、採用数や入社後のキャリアは全く異なりますね。

なるべく年の近い先輩がいる店舗に

──入社後のキャリアパスも、大学卒と高校卒で違うのでしょうか。

B社:職種が違うため、合同入社式の後は別々の研修・配属となります。ただ、職種は違えど実力主義なのは同じ。目の前の仕事が違うだけで、昇進スピードはもちろん、福利厚生など待遇面でも高校卒・大学卒での差はあまりないです。

A社:逆に弊社は全員同じ職種なので、キャリアパスにもほとんど差がありません。B社さんと同じく高校卒・大学卒合同で入社式をした後は、全員同じ研修を経て店舗に配属。そこからは、成果に応じてポジションが決まります。キャリアのスタート時期が早いこともあり、現在の最年少店長は高校卒者です。

──同じ小売業でも、違いが出ますね。離職率はいかがでしょうか。高校卒就職者の3年以内の離職率は39%(厚生労働省,2019)ですから、頭を悩ませている企業も多いようです。

B社:平均と比べると、離職率はかなり低いと思います。そもそもの採用数が毎年10名ほどと少ないですが、それでも「3年に1人辞めるかどうか」。直近5年ほど高校卒採用をしていますが、1人も辞めていない年もあります。

A社:人も辞めていない、はすごいですね。私たちの会社は毎年一定の離職者がいますが、それでも平均よりは少ないと思います。新卒社員へのフォローが行き届くよう、店舗も人事も気を使っているからかもしれません。

──何かフォローをされているのですか。

A社:「なるべく年の近い先輩がいる店舗に配属する」といった配慮はしていますね。配属された店舗に「40歳以上の人しかいない」となると、高校を卒業したばかりの彼らは萎縮してしまうと思うので。
それから、30代~40代の中堅社員をメンターとして1人ずつ店舗に配置しています。わからないことや困ったことを、いつでも聞ける環境を作ることが、新入社員のためにまずはできることですから。

B社:「メンター役」の存在は大きいですよね。私たちの会社も、新卒の配属施設ではなるべく年の近い先輩とメンタリングできるような環境を作っていますし、上長には週1回の新人レポーティングをお願いしています。
新卒一人ひとりの育成状況を定期的に確認できるので、人事としても安心です。

「生徒と直接話せない」のがネック

──続いて、採用実務の話もお聞きしたいです。今年はコロナ禍の影響もあり、高校卒採用スケジュールが、例年と比べて1カ月後ろ倒しになりました。

A社:高校生の選考開始は例年9月16日でしたが、今年は10月16日に変更になりました。弊社ではハローワークが発表するスケジュールに則り、6月に求人票をハローワークに送付し、7月に求人票が公開され、というルールで運用しています。
時期が後ろ倒しになったことで細かなスケジュールに変更はありますが、今のところ問題なく進められています。

──今年はコロナ禍の影響で、学校へ直接訪問ができない企業も多いようです。お二方の会社は公開求人(※1)を利用せず、指定校求人(※2)のみとお聞きしましたが、先生とのリレーションはどう維持されているのですか。

A社:比較的近場にある高校とのお付き合いが多いので、例年は7月ごろに学校に直接ご挨拶に行っていました。今年はこの状況ですので、すべてのやりとりを郵送か電話に切り替えています。
とはいえ、昔からお付き合いのある学校ばかりなので、実際に会わずともリレーションの構築にはそこまで支障はないですね。

B社:私たちは、今年は満足に学校訪問ができていないので、先生たちの温度感が正確につかめず、気がかりです。
先ほど申しましたとおり、高校卒採用を再開したのが5年前と最近ですし、距離が遠い高校との付き合いもしばしばあります。コロナ禍前も十分に挨拶できていたわけではないので、先生との関係構築は探り探り行っています。

──なるほど。今のような状況ですと、生徒との接触機会も限られてしまいます。

B社:はい。今年は説明会もオンラインに移行したため、生徒と会う機会は面接のみ。少し不安を感じています。「職場見学ツアー」と称して、先輩社員の働きをビデオチャットで配信するなどの工夫はしていますが、やはり重機の仕事は「百聞は一見にしかず」です。
配信の評判は良かったものの、実際に機械を見て、大きさや音を体感してほしかったという“親心”もありました。

A社:私たちも例年は自社で説明会を実施していましたが、今年はすべてオンラインに変更しました。高校卒採用は生徒との接触機会が限られているので、短期間での見極めが非常に重要だなと思っています。

──高校卒採用は大学卒と違って、面接の機会が一度しかありません。短い時間ですが、見極めで意識されていることはありますか。

B社:たった1時間程度の面接なので、突っ込んだ内容は聞けません。高校生活で頑張ったことや志望動機などのベーシックな質問をしつつ、受け答えの仕方などを見ています。
工業系の職種なので、高校時代の専攻は確認していますね。ただ、必須資格などは特に設けていないので、参考程度です。

A社:私たちも同じです。普遍的な質問を投げかけて、その対応から「伸びしろ」を見極めるほかありません。販売の仕事がメインになるので、「人当たり」や「柔軟性」を特に面接で見るようにはしていますが、大学卒と比べるとやはり相互理解に割く時間が少ないと感じます。

「ミスマッチ」を減らすには

──相互理解の機会が少ないのは、生徒・企業双方にとってのミスマッチの原因につながります。

A社:おっしゃるとおりで、企業サイドは生徒のことを1時間で理解するのが難しいと思っていますが、それは生徒サイドも同様。企業理解が十分になされないまま、「なんとなく学校の先生の紹介で決めてしまう」というケースも散見されます。
少しでも理解してもらおうと、高校生向けの採用パンフレットを作るなどの努力はしていますが、もう少し接触の機会が増えればいいな、と思うことは多々あります。

──高校生向けのパンフレットを作っていらっしゃるんですね。

A社:はい。広報物を作ることは、高校生へのアピールになるのと同時に、保護者からの理解を得るきっかけになると考えています。息子・娘を送り出す親御さんからの賛同を得られるかどうかも、重要な要素ですから。

B社:たしかに、保護者からの理解を促す活動も、各企業が知恵を絞っているところですね。私たちも、高校2年生向けにインターンシップを開催したりしています。
早いうちから会社について知ってもらい、生徒はもちろん、保護者とのリレーションに発展させたい意図からです。

──生徒・先生・保護者など、多方面から理解を深めるチャンスが増えると、より採用活動が充実しそうです。

B社:本当にそう思います。ビジネスの変化が激しいなかで、大学卒採用はダイレクトリクルーティングや長期インターンシップなど、新たな制度が出現しているタイミングですし、高校卒採用もこれを機にもう少し柔軟性が持たせられるといいかな、と実感します。
もう一点、高校卒採用は大学卒と比較して「デジタル」の普及が後手になっているとも感じます。やりとりが電話や郵送でほとんど固定化されているので、メールを使うなどコミュニケーションの効率化が進めば、より本質的な相互理解に時間が使えるかもしれません。

A社:同感です。今までも規定に従って採用活動をしてきましたし、今後もそのつもりですが、まだまだ改善の余地はあると思います。
例えば、卒業生社員と出身高校のフォローアップの機会を設けるなどすれば、学校・企業・生徒のつながりを深める契機になるのでは、と考えたりしています。
現行のルールを見直しつつアップデートすることが、全方面にとってサステナブルな採用へとつながっていくのではないでしょうか。

 

(※1)どの生徒でも見られる状態で求人票をハローワークに登録すること
(※2)指定した特定の学校の生徒のみが見られる状態で求人票をハローワークに登録すること

(執筆:高橋智香)

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