職の魅力を左右する要因-なぜ人はデスクワークを志向するのか-

2021年11月04日

松本洋輔(一橋大学 経済学研究科)

どのような特性が職の魅力を規定するか

これまでに紹介した分析からは、職種ごとの人気度の差異とそれらが労働市場に及ぼす影響を考察した。続いて今回は、どのような仕事の特性が職業の魅力を規定しているのかを分析する。

厚生労働省が提供している職業情報提供サイト(日本版O-NET)にて提供されている職業情報データを用いることで分析を試みる。当データは実際にその職業に従事する労働者にアンケートをとり、各職業にて求められる知識やスキルを数値化したものである。

当データとリクルートワークス研究所「サービス業の働き方調査」を厚生労働省の職業分類を基準に結合することで、職の特性と職の人気度の関係性を把握することが可能になる。これを用いて、「人々が魅力を感じる仕事の特性」に迫っていこう。

まず、職業特性の中でも、「価値観」に着目して分析を行う。「価値観」とは、当職業で満足感を得やすい価値観を示す。重視する価値観の得点が高い職業を選択することで、仕事に満足感(内的報酬)を得やすいとされている。図表1は全体サンプル・各サブサンプルの職業人気度と、それらの職業を構成する「価値観」の相関関係をみたものである。

図表1 職業人気度と職業価値観の相関係数(性別)
職業人気度と職業価値観の相関係数

出典:リクルートワークス研究所「サービス業の働き方調査」、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)「職業情報データベース 簡易版数値系ダウンロードデータ ver.1.8」 より作成(※1)

労働安全衛生、社会的認知・地位が職業人気度と強い相関を持つ

全体の傾向として、労働安全衛生、社会的認知・地位が職業人気度と正の相関を持つことが見て取れる。

労働安全衛生が職業人気度と正の相関をもつということは、危険な職業が避けられているということを表しており、これは補償賃金仮説と整合的である。また、社会的認知・地位と職業人気度も正の相関を示した。社会的地位がある職に就くことで「名誉獲得・尊敬の念を抱かれる」等の正の効用が得られると考えると、直感に反しない。

また、男女別・年齢層別に見ていくと、男女ともに、年齢を重ねるにつれて労働安全衛生、社会的認知・地位、専門性と人気職業の相関が高くなっていることが確認できる。加えて、男性より女性の方が労働安全衛生、私生活との両立と人気職業の相関が高くなり、女性の方が安全な仕事を好み、かつ私生活との両立を重視することが見て取れる。

当分析はあくまで相関関係を見たものであり、必ずしも因果関係を意味しないため、あくまで一可能性にすぎないことには留意したいが、労働安全衛生や社会的認知・地位をはじめとした職業の特性が職の人気度に影響を与えている可能性が示唆される。

実際に、図表3を見ると、前回のコラムにて不人気職業として挙げられた警備員・清掃員・ドライバーは労働安全衛生,社会的認知・地位のいずれにおいても下位5職種の中に入っている。前コラムにて考察を行った「人手不足と職業不人気の関係性」も加味すると、現在人手不足な職業は労働安全衛生や社会的認知・地位が低いために人気が低く、労働供給不足に陥っているのだろう。

図表2 職業人気度と職業価値観の相関係数(性・年齢別)
職業人気度と職業価値観の相関係数(性・年齢別)

出典:リクルートワークス研究所「サービス業の働き方調査」、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)「職業情報データベース 簡易版数値系ダウンロードデータ ver.1.8」 より作成

図表3 職業価値観が高い職種と低い職種
職業価値観が高い職種と低い職種
出典:リクルートワークス研究所「サービス業の働き方調査」、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)「職業情報データベース 簡易版数値系ダウンロードデータ ver.1.8」 より作成

人手不足解消のためには、安全性の確保や負担軽減も重要

現在、また将来的にも、就業者数が増加している女性・高齢者は特に「労働安全衛生」と職の人気度の正の相関が強く、彼ら/彼女らの労働者全体に占める割合の増加が、ノンデスクワーカーの人手不足傾向に拍車をかけている可能性も存在する。

こうした中で、これらの業種が高度な労働安全衛生を求める高齢者や女性を雇用することで人手不足を解消するためには、補償賃金仮説に基づく賃金による十分な補償を行う(※2)こと、もしくは職安全性の担保・負担軽減(例.高負荷作業と低負荷作業の切り分け、短時間労働者の雇用、柔軟な労働時間の導入等) (※3)が必要なのではないかと考えられる。

さらには、社会的認知・地位が職業人気と大きく相関していることから、人手不足職業であるノンデスクワーカーの社会的認知・地位を高める風潮を形成していくことも、人手不足解消の一手となるかもしれない。

少子高齢化により、15歳以上人口が減少の一途を辿る今、産業の生産性改善と共に、非労働者の労働市場参入を促し、就業者の絶対数を増加させていくことが必要とされる。そのための手段の一つとして、本コラムで述べたことを含めた「人手不足産業と職業人気(職業選好)のミスマッチ縮小への取り組み」には一考の余地があるはずだ。

(※1)厚生労働省編職業分類を基に、リクルートワークス研究所「サービス業の働き方調査」にてアンケートを取った34職種と厚生労働省「日本版O-net」記載の職種の結合を行っている。
(※2)現時点では、高齢者・女性労働者が労働負担の負の効用を賃金がカバーしきれていない可能性がある。
(※3)特に警備業は、長時間労働・長期間雇用になる場合が多く、高齢者・女性労働者の選好に合致していない可能性が非常に高い。