キャリア再開発の問題は「3つの移行ポイント」で生じている

2018年11月16日

総務省「労働力調査(詳細集計)」によれば、配偶者のいる女性就業者の数は、2002~2017年に1576万人から1723万人へと増加した。人手不足に対応するため、女性の再就業支援を充実させる地方自治体も増えている。

一方、女性の復職支援の現場からは、復職支援セミナーに女性が集まりにくい、なかなか求職活動につながらない、などの声が聞こえてくる。復職を希望する女性の側からも、本当にやりたい仕事で働くまでの道のりが見通せない、という指摘がある。

前回のコラムで触れたように、離職期間のある女性が、ふたたび本当にやりたい仕事に就き、キャリアを実現するまでにはいくつもの局面、さまざまな問題がある。この問題を解きほぐすことが、ブランクからのキャリア再開発支援を考える最初の一歩である。

就業希望が不安定で、求職活動に結びつかない

キャリア再開発を阻む問題は、大きく3つの移行ポイントで発生している(図表1)。今回のコラムでは第1の移行ポイント、すなわち、働きたいと思いながら仕事に就いていない「就業希望期」から、実際に働き始める「就業期」への移行時に着目する。

図表1 ブランクからのキャリア再開発に問題が生じる3つの移行ポイント

【第1の移行ポイント】働きたいと思いながら仕事に就いていない「就業希望期」から、実際に働き始める「就業期」への移行
【第2の移行ポイント】就業期から、本当にやりたい仕事でのキャリア形成への移行
【第3の移行ポイント】就業希望期から、直接、本当にやりたい仕事でのキャリア形成に向かう移行

働く希望が安定しない

就業希望期から就業期への移行の際、どのような問題が生じているのか。その1つは、女性の就業希望が不安定になりやすいことだ。難なく就業する人もいるが、働きたいと思ったり、やはり難しいと思ったり、思い悩むうちに時間が経過する人や、そのまま就業希望を失う人が少なくない。

全国の約5万人を追跡調査するリクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」によって、そのことを確認する。ここで注目するのは、配偶者と子どもがおり、前職を離職してからの期間が3年以上、就業希望のある49歳以下の無業女性である(以下、就業希望女性と呼ぶ)。
就業希望女性(2015年12月時点)の1年後、2年後の状況を図表2に示した。これによると、仕事に就いた人は1年後に3割、2年後に約4割であった。また、就業希望があるが仕事に就かないままの人は、1年後に約4割、2年後に約2割であった。一方、就業希望を失う人の割合は、1年後に約3割、2年後に約4割となった。要するに、就業希望女性の半数以上が、2年後の時点で立ち止まったままだったり、働く希望をなくしたりしているのである(※1) 。

図表2 就業希望女性(2015年12月時点)の1年後、2年後の状況

(注)ここでの就業希望女性は、前職を離職してからの期間が3年以上で、就業希望のある無業者(内定者を除く)。配偶者・子どもがおり、社会人経験がある49歳までの既卒女性。
(出所)リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査」より作成

形を変えながら、影響しつづける「不安」

女性の就業希望が安定しない大きな要因は、子どもの年齢や離職期間によって形を変えながら、働くことへの不安が続くことだ。ジョブズリサーチセンター「主婦の就業に関する1万人調査」(2015)によれば、就業希望のある女性の約7割が、働くことに不安を持っている。子どもが小さいうちは仕事と家庭の両立や、子どもの病気時の対応への不安が大きく、子どもが大きくなると離職期間の長さや年齢への不安が高まる。

人間関係が変わることへの不安も大きい。育児中の女性同士のコミュニティや、子育てに関するボランティア活動で培った人間関係から離れることへの孤立感や、就業先での人間関係への不安を指摘する女性は少なくない。このほかに、「やりたい仕事が分からない」「何に向いているか分からない」など、自分の希望や適性が分からないため、求人に応募できないケースもある。

やりがいを求めて求職活動を行うからこそ、働けないという問題も

もう1つの問題は、求職活動に踏み切ったあとで、就業希望をなくす女性がいることだ。先ほど確認した「全国就業実態パネル調査」のデータによれば、2015年12月時点で求職活動を行っていた就業希望女性のうち、約5人に1人は、1年後に就業希望なしと回答していた(※2)。

背景にあるのは、就職活動の不調だ。履歴書の書き方や面接の受け方が自己流で、企業からマイナスの評価を受けるケースもあるが、やりがいのある仕事を希望する人ほど、再就業が難しくなりやすい状況がある。厚生労働省の調査(※3)によれば、離職前の仕事でやりがいを感じていた女性では、再就業時の仕事の選び方として、仕事内容、やりがい、雇用形態や給与水準を重視する傾向にあり、同時に、柔軟な働き方や家庭への配慮を求める傾向が強い(図表3)。
現状では、判断力が必要な仕事や責任が伴う仕事の求人では、フルタイムや残業ありきの働き方を前提とすることが多く、仕事内容と柔軟な働き方の両方を重視する場合には、採用に結びつきにくい。不採用が続く結果、希望の仕事につくのはもう難しいと感じ、働くこと自体を諦めていると考えられる。

図表3 離職前のやりがい別、再就職先を決める際に重視したこと

(注)出産・育児等を機に離職し、その後再就職した女性(既婚、子どもあり、末子が小学6年生以下)。
(出所)厚生労働省「出産・育児等を機に離職した女性の再就職等に係る調査研究」(2015)より作成

就業希望を持ち続け、自分なりにキャリアを切り拓ける感覚をどう支えるか

就業希望期から就業期への移行時に生じるこれらの問題に、政策はどう向き合えばいいのだろうか。ヒントは、不確実性が高まる時代におけるキャリア支援のあり方を提唱した米国の心理学者、マーク・L・サビカスの議論にありそうだ。
サビカスは、自分自身と仕事をめぐる環境の変化をすり合わせながら、自分らしいキャリアを作り上げていく力を「キャリア適応力」と呼び、そこには、(1)関心(自分が働く未来を悲観せず、これからの仕事に関心を持って備えようとする意識)、(2)統制(未来を創る主体は自分であると考え、将来の仕事を自分なりにコントロールしていこうという意識)、(3)好奇心(好奇心を持って仕事を探索し、自分の可能性や違う役割を試す姿勢)、(4)自信(自分に適した仕事を選ぶための選択や行動ができるという自己信頼感)の4つが重要であるとした。

就業希望期から就業期への移行時には、上記のうち①と②の次元で問題が発生していると言える。すなわち、再就業への不安や求職活動での困難が、働くことは難しい、希望の仕事に就くことはできないという無力感をもたらし、仕事への関心や前向きに備える気持ち、自分で未来の仕事を切り拓ける感覚を失わせていると考えられる。

そうであるならば、女性のキャリア再開発支援は、いかに再就業への敷居を低くするのかと同時に、どうやって自分で働く未来を切り拓いていける感覚を持てるようにするのか、という2つの課題を克服するものでなければならない

これまで女性の再就業支援は、「就業後のキャリアをひとくくりに考えた上で、就業までを支える」ものが中心であった。しかし、それのみでは、今回のコラムで見てきたような問題を解決できない。
そこで、新しい支援の方向として、就業後の期間を2つに分けて考えることを提唱したい。具体的には、(1)いくつかの仕事を試しながら自分のやりたい仕事を見出し、本当にやりたい仕事に就くためのステップを刻む「試行期」と、(2)本当にやりたい仕事に就く「キャリア実現期」に分けて考えるのである。

最初から理想を叶えなくていい。やりたい仕事に就くまでの試行期を挟むことで、最初のステップを気軽に踏み出しやすくする。同時に、この時期を本当にやりたい仕事を見つけ、そこに近づくための期間と位置つける。このための政策や具体的な支援策については、連載の後半でまた詳しく触れる。

とはいえ、試行期を創設するだけで、キャリアの再開発がすべて上手くわけではない。次回のコラムでは、女性の再就業後に生じる問題を掘り下げた上で、「さらなる一手」についても考えていきたい。

 

(※1)なお、前職を離職してからの期間が3年以上で、就業希望のない女性のうち約2割は1年後、2年後に仕事に就いている。これらの人の多くは、元の職場や知人から声を掛けられたなどのきっかけで仕事に就いている人だと考えられる。
(※2)2015年12月時点の就業希望女性の2016年12月時点の状況。
(※3)厚生労働省「出産・育児等を機に離職した女性の再就職等に係る調査研究事業 労働者アンケート調査」(2015年)。