地方創生、突破口は「非営利」の仕事創出 ―アメリカでは3番目の雇用者数― 中村天江

2021年05月18日

東京一極集中の原因は、地方の仕事の少なさ

少子高齢化と人口減少が進む日本で、最も深刻な問題の一つが地方の衰退です。若い人が地元を離れたまま帰ってこず、残った年配者が高齢化し、自治体によってはすでに暮らしのさまざまな機能が回らなくなっています。全国の市区町村の半分にあたる896もの自治体が消滅する可能性があると、2014年には日本創成会議が警鐘を鳴らしました。
新型コロナウイルスが流行した2020年以降は、住環境のよい地域への移住希望者が増えているものの、10年20年の長いレンジで見れば、人口の都心集中は、依然解消していません。
人が地元を離れ、都市部に移住する最も大きな理由は、「地方における仕事の少なさ」です。地元に残らず東京圏に移住した事情の上位には、「希望する職種の仕事がみつからない」「賃金等の待遇の良い仕事がみつからない」「自分の能力を生かせる仕事がみつからない」と、仕事の希望が叶わないとの理由が並んでいます(図表1)。
東京一極集中に歯止めをかけ、地方創生を実現するには、地方に魅力的な仕事を創らなければならない。この難題に対し、今、新たな仕事の胎動が生まれています――。

図表1 地元に残らずに移住することを選択した背景となった事情図表1差し替え.png

出所:国土交通省「企業等の東京一極集中に関する懇談会」第4回配布資料「市民向け国際アンケート調査結果(速報)」

地方の仕事創出0%というOECDの分析結果

地方における雇用(仕事)創出を考えるにあたり、2つのデータを最初に紹介します。1つ目は、2018年にOECDが発表した仕事創出に関する27カ国の比較結果です。
OECDは、日本は仕事創出の100%が首都圏地域、つまり、地方(首都圏以外の地域)における仕事創出は0%だと分析しています(図表2)。
これは2006年から2016年にかけて増えた仕事の数にしめる首都圏地域の割合を計算したものです。首都圏以外でも愛知や大阪、福岡など仕事が増えている府県はあるのですが、首都圏以外の地域では仕事が減っている県が多いため、まとめると増えた仕事はすべて首都圏地域の増加とみなされています(※1)。

分析対象となった27カ国のうちで、仕事創出にしめる首都圏の割合が100%の国は、日本しかありません。仕事創出にしめる首都圏の割合は、イギリス34%、ドイツ7%、アメリカ1%であり、日本は際立って仕事創出が首都圏に偏っていることがわかります。これでは、地方から人が流出するはずです。東京一極集中に歯止めがかからないのもやむを得ません。
そうはいえど、人口が少ない地方では、消費者も少ないため、商圏が小さく、営利のビジネスが難しいという現実があります。法人とのビジネスであっても、情報や取引先は都市部のほうが豊富です。地方で営利のビジネスを軌道に乗せるのは容易ではありません。

図表2 仕事創出(net job creation)に対する首都圏の割合(2006~2016年)仕事創出に対する首都圏の割合

出所:OECD “Job Creation and Local Economic Development 2018 Preparing for the Future of Work”

アメリカでは「非営利セクター」は3番目の就業規模

2つ目のデータは、アメリカの産業別の雇用シェアです。アメリカは、仕事創出にしめる首都圏地域の割合が1%と、27カ国で最も首都圏依存度が低い国です(図表2)。首都ワシントンD.C.よりも、シリコンバレーを擁するカリフォルニア州や、エネルギー産業が発展しているテキサス州のほうが、産業規模が大きいことはよく知られています。
加えて、アメリカの仕事創出の大きな特徴は、「非営利セクター」の就業者数が極めて多いということです。アメリカの就業者数を産業別に並べると、非営利セクターは、小売業、製造業に次ぐ、第3位です。非営利セクターの就業規模は、建設業や卸売業、情報業よりも大きいのです(図表3)。
ちなみに、日本の政府統計である「労働力調査」の産業分類には、非営利セクターは存在しません(※2)。また、日本の就業規模は上位から、卸売業・小売業、製造業、医療・福祉、建設業、サービス業(他に分類されないもの)です(※3)。 

図表3 アメリカの産業別就業者数
図表3_修正.png出所:M. Salamon(2018)“ Nonprofits: America's Third Largest Workforce”, Nonprofit Economic Data Bulletin #46

地方創生の突破口は、「非営利の仕事創出」

非営利セクターの仕事は、アメリカでは3番目に多いのに、日本では広がっていない。この事実は、日本では仕事のとらえ方が営利に偏りすぎているのではないか、という疑問を提起させます。
日本とアメリカで、非営利セクターの就業規模にここまで大きな差がある一因は、日本の労働力調査では、医療・福祉や公務といった分類に、非営利の仕事が混ざり込んでいるからですが、もう1つの理由は、NPOなど非営利セクターの雇用創出力に差があるからです。
前述したように、地方は社会課題が山積していますが、営利ビジネスの拡大には限界があります。アメリカで非営利セクターでの雇用者数がこれほどに多いことを考えれば、日本の地方では、「非営利の仕事創出」にも積極的に取り組むべきでしょう。
そして現実に今、日本の地方では、非営利の仕事創出に新たな2つの潮流が生まれつつあります。1つ目は、NPO法(特定非営利活動促進法)成立から20年以上経過し、社会に定着し、さらなる発展が期待されるNPO(民間非営利組織)による雇用創出です。そしてもう1つは、全国954もの自治体で早期制定の意見書が採択され、2020年12月に法律が成立したばかりの協同労働(労働者協同組合)という、雇用でも自営でもない第3の働き方の広がりです。

ではNPOと協同労働はそれぞれ現状どうなっているのか。具体的にみていきましょう。

(※1)OECDは2006年から2016年にかけての仕事の増減を、日本の都道府県を10に分割(北海道、東北、北関東・甲信、南関東、北陸、東海、関西、中国、四国、九州・沖縄)し、計算。結果、仕事が増えたのは南関東地域(東京、神奈川、千葉、埼玉)だけであり、他の9地域はすべてマイナスで仕事が減少していた。よって日本の仕事創出は100%南関東地域(首都圏)によると報告している。
(※2)労働力調査には「公務」という分類があるが、就業者数は全体の4%もない。
(※3) 総務省統計局「労働力調査」2020年

社会課題を解決するには、NPOがあと10倍必要

NPO(民間非営利組織)の活動範囲は非常に広く、暮らしや福祉、環境や文化、国際交流やキャリア支援など多岐にわたります。かつては、NPOは福祉やボランティアとみなされたりもしましたが、今日ではNPOは社会課題の解決の担い手としてなくてはならない存在です。災害やコロナ禍のような社会的危機のときに、困難に直面している人たちを支えているのもNPOです。
このようなNPOの活動は、社会性が極めて高く、やりがいに満ちています。しかし非営利ゆえに無償もしくは安い給料で働かざるを得ず、自己犠牲を伴う献身の結果、燃え尽き症候群ややりがい搾取に陥ってしまうとも指摘されてきました。
ところが、その状況が徐々に変わりつつあるのです。新公益連盟の分析によれば、中小企業の非役職者の平均年収が292万円のところ、新公益連盟傘下のNPOでは一般職員の平均年収は339万円でした(図表4)。また、働く環境や労働時間についても重視するNPOの代表者が増えています(※4)。

さらに、NPOでの経験が民間企業で、民間企業での経験がNPOで生きるようにもなっています。子ども支援のカタリバが、コロナ禍の中で募集した求人には、2000件もの応募が集まりました。東北の復興を支援するRCFで働いた経験は、民間企業でも評価され、転職時に20~30%給与が増える人もいるそうです(※5)。
もちろん、すべてのNPOがこうなっているわけではありません。しかしそれでも、NPOの中に、ボランティアとしての社会貢献だけでなく、「キャリアの選択肢」「健全な就業先」ができつつあるのです。
NPOは現在、全国に約5万あるものの、2010年代半ばから頭打ちです(※6)。この状況に対し、「さまざまな社会課題を解決するには、今の10倍以上のNPOが、全国津々浦々にあってしかるべきだと、私は思います」と、東日本大震災の復興に尽力し、新公益連盟の事務局長でもある藤沢烈氏は述べています(※7)。地方では、NPOによる仕事創出に、大きな可能性と必要性があります。
 

図表4 NPOと中小企業の年収比較
NPOと中小企業の年齢比較

出所:新公益連盟「ソーシャルセクター組織実態調査2017」

全国954の自治体から意見書、2020年12月新法成立

もう1つの非営利の仕事創出は、協同労働(ワーカーズ・コープ/ワーカーズ・コレクティブ)と呼ばれる、雇用とも自営とも違う第3の働き方です。協同労働は、厳密には「労働者協同組合」といいます。
労働者協同組合とは耳慣れない言葉だと思います。しかし、農業協同組合(農協)や生活協同組合(生協)だったら、ご存じなのではないでしょうか。協同組合にはさまざまなものがあり、スペインでは協同組合2万958団体のうち約8割が労働者協同組合です。一方、日本は、農協や生協など、協同組合そのものは3万6000以上あるのですが、労働者協同組合に関してはこれまで法的な枠組みがありませんでした(※8)。
労働者協同組合の事業領域は、子育てや高齢者の介護、生活における困り事のサポート、就労支援、さらにはエネルギー開発など多岐にわたります。地域の高齢者や主婦、定職についたことがない方、ひきこもりのようにどこか生きづらさを抱えている方など、多様な個人を包摂する働き方にもなっています。

労働者協同組合では、働き手が自ら出資して、自分たちで運営して、さらに労働者としても働きます(図表5)。株式会社であれば通常、株主と経営者、労働者は別々ですが、協同労働では働き手がすべての役割を担います。労働者協同組合では「組合員の意見を経営に反映する仕組み」について定款に記載することが定められているため、経営者から一方的に命令されて働くことはありません。日本労働者協同組合連合会の古村伸宏理事長は、「協同労働は自分を削らない働き方」だと表現します(※9)。
労働者協同組合法の整備は党派を超えて推進され、2020年12月、参議院において与野党全会一致で法律が成立しました。そこに至る過程では、全国954もの自治体が、法律の早期制定に関する意見書を採択しています。労働者協同組合は、地方の仕事おこしや持続可能性を高める働き方として期待されているのです。

図表5 法人形態の違い法人形態の違い

NPOと協同労働の広がりを阻む壁

このように日本でも、NPOの成熟と協同労働の法整備により、非営利事業で働く環境が整いつつあります。しかも、NPOは不足が指摘され、協同労働は拡大が期待されています。地方において非営利の仕事創出に取り組む好機が到来したのです。
その一方で、NPOや労働者協同組合へのヒアリングからは、NPOや協同労働という非営利の仕事が生まれつつあるのに、その成長を阻む社会の慣行や行政の仕組みがあることも明らかになっています。
例えば、NPOや労働者協同組合は、行政からの受託事業を中心に事業を運営している法人が数多くあります。しかし、行政事業の入札では、民間の営利企業と同じ規準で評価されるため、非営利法人は費用や効率性の面で劣位となり、実績がある事業であっても受託できないということが起きています。確かに経済合理性を絶対視する基準の中では、この判断はあり得るのですが、非営利事業による仕事創出を推進するという観点からは、この判断基準がある限り、共助の芽はなかなか育ちません。

早急に「共助を育む」社会への転換を

営利事業に比べ、非営利事業は事業収入だけで運営を成立させることが構造的に困難です。よって、非営利の仕事創出を推進するためには、寄附など、社会全体でお金の巡りを整備する必要があります。
近年、クラウドファンディングやふるさと納税により個人寄附は増えつつありますが、法人寄附の税額控除の仕組みには課題が残っており、法人寄附を拡大するためには税制の見直しが必要です。
また、協同労働が浸透しているイタリアでは、行政事業の委託にあたって社会性の高い団体に優遇発注する仕組みがあります。非営利の仕事創出を進めるには、事業判断の基準においても経済合理性だけでなく、共助の広がりに資するかを考慮すべきです。

さらにお金の巡りを整えるためには、各NPOや各労働者協同組合の事業活動を評価し、お金を差配できるメガ法人を育てることが考えられます。イギリスには行政と各NPOの中間に入る大きなNPOが存在しますし、日本労働者協同組合連合会は協同労働においてその役目を果たしています。
加えて行政機関は数が非常に多い上、担当者が異動するため、NPOや労働者協同組合への対応が属人的になりがちという問題も起きています。「非営利の仕事創出」を進めるためには、国が共助社会への転換を打ち出すにとどめず、全国の自治体で地に足をつけて継続的に取り組んでいくことが強く期待されます(※10)。

公共事業や観光産業から、生活を支える仕事へ

かつて、地方における雇用は、ダムなどの公共事業によってつくられてきました。しかし、社会が成熟し、新たな建築物やインフラの整備が不要になるなか、従来の手法は通用しなくなってしまいました。そこでサービス経済化が進むにつれ、インバウンド消費など観光産業の拡大や、関係人口の増加によって、地域を活性化する政策にシフトしています。
しかし、その一方で、人口減少と超高齢化により地域活動の「担い手」が減少している地方では、日々暮らしていくための課題が山積するようになっています。NPOや協同労働は、まさにこのような生活のための仕事でもあります。非営利の仕事創出こそ、地方創生の突破口になるのです。
NPOと協同労働の現状と今後の発展に向けた提言は、『「つながり」のキャリア論 ―希望を叶える6つの共助―』 にまとめています。これからの仕事のあり方を考える一助にしていただければ幸いです。

中村天江

(※4)今村久美氏インタビュー「生き生き働ける組織が社会にインパクトをもたらす。子ども支援のカタリバ、20年の歩み」『兆し発見 キャリア共助の「今」を探る』リクルートワークス研究所 https://www.works-i.com/project/10career/mutual/detail014.html
(※5)「『つながり』のキャリア論 ―希望を叶える6つの共助―」 https://www.works-i.com/research/report/item/tsunagari_210316.pdf
(※6)日本NPOセンター『知っておきたいNPOのこと1 基本編』
(※7)藤沢烈氏インタビュー「20年で『職業の選択肢』になったNPOを10倍増やすには?」『兆し発見 キャリア共助の「今」を探る』リクルートワークス研究所 https://www.works-i.com/project/10career/mutual/detail003.html
(※8)「『つながり』のキャリア論 ―希望を叶える6つの共助―」 https://www.works-i.com/research/report/item/tsunagari_210316.pdf
(※9) 古村伸宏氏インタビュー「自分を削らない働き方へ、挑み続けた40年」『兆し発見 キャリア共助の「今」を探る』リクルートワークス研究所 https://www.works-i.com/project/10career/mutual/detail006.html
(※10)共助の活動は、個人の幸福度や、キャリア選択の主体性を高めることがわかっている。

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