メキシコで、自社に合った現地人材を確保する方法

瀧澤寿美雄氏、長坂保男氏

2015年04月06日

メキシコでは、中間管理職や幹部候補生が売り手市場にあり、特に技術と管理能力を兼ね備えた人材のニーズが高まっている。
日本企業のメキシコ進出支援を行うメヒココンサルティング代表取締役の瀧澤寿美雄氏と顧問の長坂保男氏が、メキシコでの採用に関する問題点とその解決方法を解説する。

◆職業訓練所の提案型研修プログラムで、自社に合った人材を育成する。
◆採用前に、明確な職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)を提示する。

メキシコで、自社に合った現地人材を確保する方法

日系自動車部品メーカーの進出ブーム

ここ数年、メキシコへの関心が日本企業の間で急速に高まっている。メキシコは、西半球の巨大市場・米国を抱える北米市場と、ラテンアメリカ最大の新興国・ブラジルを有する南米市場の中間地点にある。
この地理的な優位性に、海外戦略の有望な直接投資先として日本企業、とりわけ、自動車産業が注目した。現在、日本から進出する自動車部品メーカーの空前の投資ブームでメキシコ自動車産業は活況を呈しており、そのブームの陰で、現地人材採用のハードルが高くなっている。

メキシコの自動車産業では、企業の事業拡大に人材育成が追いついておらず、人材の需要と供給のミスマッチが日系企業にとって問題となっている。メキシコへ進出した日系企業の間では人材の奪い合いが起こっており、現地社員の技術職・営業職におけるリーダー人材の賃金が上昇傾向にある。経営幹部を養成する工業系大卒者の採用ニーズが増えているが、工業系大学の出身者は少なく、より高額な報酬を求めるため採用にいたっても定着率が悪いことがある。

メキシコでは、専門性を高めるキャリア形成が一般的で、職能による縦割型の人員配置となっているため、日本のように人事ローテーションを行うのが難しい。そのため、日本人社員の片腕となる管理職クラスの人材が育ちにくい。日系企業が事業を拡大するためには、日系企業の人材ニーズにあった管理職もしくは管理職候補者の育成や確保が課題となっている。

人材不足の中間管理職、コストが高いスペシャリスト人材

現地の製造業では、現場で工業高校卒の労働者を指導する中間管理職が不足している。特に求められている人材は、技術面と経営面の両方を理解し、マネジメントを行える管理職層。技術面では、品質管理の「QC7つ道具」などの手法を活用し、現状分析に則って工場全体や企業全体の生産を管理すると共に、マーケティングに基づく製品品質の水準向上を具体的に運営管理できる能力が求められる。経営面においては、経営計画の立案や資源管理、事業の原価管理等の能力が必要とされている。

また、スペシャリストの人材コストは高い傾向にあり、その報酬は日系現地法人の社長より高いことがある。例えば販売や税務面のスペシャリスト。メキシコ人のセールスマネジャーは、それぞれの業界に特殊なコネクションを持ち、顧客の責任者のリベートの取り扱いについても対応するため、販売トップとして欠かせない。そのほか税務の専門家も、変更が多いメキシコの税制について運用上の相談する必要があるため、社内に不可欠な存在となっている。
このようなスペシャリスト人材の採用に関して、現地法人が社内の職位による給料の序列に捉われ、専門能力が十分でない人材を採用してしまった失敗例をよくみかける。

職業訓練所を最大限活用する

メキシコで管理職やスペシャリスト職の現地人材を確保するためには、州立職業訓練所を活用することが考えられる。例えばグアナファト州には、州が運営する職業訓練所が28 カ所あり、企業が希望する研修プログラムを組めるため、現地社員の研修や採用に活用することができる。プログラムの参加者は、自らの専門プロジェクトを持ち、訓練所内での座学と企業実習の両面で訓練を受けることができる。

工業高校の卒業生は、企業が求める基礎技術や組織人としての基本スキルを身に付けており、中間管理職候補として位置づけられている。しかし高校で学んだだけでは管理職としてのスキルが不足するため、就職後ある程度の年数を経て自分の仕事を覚えたら、次は管理職としてのスキルアップが必要となる。自社の管理職候補者を育成する場合、現場リーダーに必要な技術と経営を教える州立職業訓練所のプログラムに、社内教育と並行して参加させると良い。

また、日系進出企業がプログラムに参加した工業高校在学中の生徒のインターン実習を引き受けることにより、自社の仕事のやり方を学生に覚えてもらう方法もある。訓練所の座学で日本の管理者養成プログラムを提案し、自社が求める人材育成を進めれば、訓練終了後に自社で採用することができる。

職務記述書がもたらす効果

採用した人材を定着させて戦力となってもらうためには、日本人幹部社員との良好なコミュニケーションと、妥当性があり透明性が確保された人事評価を行うことがもちろん重要だが、それ以前に採用時、職務記述書を作成して、職務を明確に文書で示しておく必要がある。メキシコ人の労働慣行や人事制度は米国式に近く、職務の価値が重視される。

職務記述書の例:

このような職務記述書を作成しておくことで、以下のような効果が現れる。

① 各職種の職務内容が明確になる
② 最適な人材の配置と、職種グレードの設定ができる
③ 人材育成で、教えるべき仕事とその順序が明確になる
④ 個人が次に目標とする役割が明示される
⑤ 採用時に職務とキャリアアップのイメージを持たせることができる

日本の労働慣行とは異なるが、メキシコでは現地人材の採用時に「具体的な職務は何か?」「技能や経験に基づいた職位となっているか?」「職務グレードと報酬はどの程度か?」といった疑問を明確にしておくことで、採用した人材が定着し、戦略になることが期待できる。

プロフィール

瀧澤 寿美雄(たきざわ すみお)氏

株式会社メヒココンサルティング 代表取締役

ハリスコ州貿易投資日本事務所所長。
元メキシコ経済省駐日代表部アドバイザー、ジェトロ新興国進出支援専門家(平成26年度)、中小機構国際化支援アドバイザー(平成26年度)

プロフィール

長坂 保男(ながさか やすお)氏

株式会社メヒココンサルティング 顧問

家電メーカーグループ商社で中南米の海外業務に従事した後、
2010年にコンサルタントして独立し、事務所開設。中小企業大学などの講師、企業の海外事業支援や研修実績多数。
中小企業診断士、スペイン語通訳案内士