「雇用」研究の第一人者が見る、世界の採用とは…

Vol.1 ピーター・キャペリ氏(Peter Cappelli) ペンシルベニア大学ウォートン・スクール・オブ・ビジネス教授

2014年01月29日

アウトソーシングへと向かう米国

米国では、必要な人材を必要なときに採用する「ジャスト・イン・タイム」の労働力の確保に関心が集まっています。

その理由の1つは、スキルの多様化。かつて企業は必要なスキルを社内で育成していましたが、スキルの多様化により、それが難しくなり、即戦力となる人材の発掘が重要になりました。

また一方で、リーマンショックなどを経て、景気低迷時の大量レイオフを避けるためにも、多数の従業員を抱え込まず、大部分を可変因子とするべく、派遣や契約といった正社員以外の労働者を雇う方向に進んでいます。

そのような人材の発掘にあたって、企業間の競争は激化しています。私が見るところ、「自社内に採用業務を遂行する力がないことに気づいた企業が、アウトソーシングを選ぶ」という方向に、全面的に傾いていくと思います。それが理由で、RPO(Recruitment Process Outsourcing:採用代行)の利用も増加していくでしょう。

また、社内の労働力をアウトソースすることで、正社員よりもはるかに契約期間が長いコントラクターが増加するなど、人材ポートフォリオのハイブリッド化がさらに進むでしょう。

人事戦略は国によって異なる

ところが、欧州諸国では、法律上の理由から、ジャスト・イン・タイム型の労働力を構築することが非常に難しい状況です。

そのため、RPOの需要は米国ほどには拡大せず、社外の人材を確保するよりも、社内の人材育成に目を向ける傾向が強いといえます。

一方、インドやブラジルでは、労働市場が逼迫し、社内でのスキル不足が問題となっています。そのため、仕事ができる人材確保のために、HR(Human Relations)に多くの資金を投入し、新しいことを試そうという意欲は高いといえるでしょう。また、インドでは、採用する企業が候補者の家族へのサポートを重要なセールスポイントになるなど、グローカルな面での配慮が必要です。

とはいえ、米国外の企業はいまだに正規の雇用モデルをもとに、自社採用を上達させることを重視しています。しかし、それは今後変化する可能性が十分あります。

今後を予測するうえで、最も重要な点は、労働市場の逼迫度です。もちろんそれは、経済の成長速度によって左右します。そのため、ありとあらゆる資本が集まるアジアの労働市場の変化に、今後注目したいと思います。

さらに、最近ではベンダーのコミュニティからアイデアが生まれ、それが企業に取り入れられています。今後5~10年という経年で観測するのは、面白いと思います。

SNSを採用に活用するリスク

ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を採用で活用することに関して、それを利用する価値が本当にあるのかどうかを把握している企業はほとんどありません。たいていの企業は、SNSは人材紹介会社などを利用するよりも安価で、費用対効果が高くなるだろうといった、単なる勘のもとで動いているにすぎません。

確かに、SNSを利用すれば、より低コストで候補者を発掘できますが、その候補者が本当に優秀なのか、その人が提供している情報を信じていいのかが、問題になります。

人材紹介会社を利用した場合は、候補者の人柄や働きぶりに関する検証内容を知ることができますが、SNSではそのような情報を得ることができません。つまり、信憑性が低い情報をもとに採用を行うという、大きなリスクを負うことになります。

また同時に、SNSを通じて自社の透明性が高まることによって、従業員を引き抜かれやすくなるというリスクも負います。

米国では、SNSの登場により、競合などで働く有能な人材へもアプローチできるようになりました。その傾向は、米国だけにとどまらず、中国や欧州でも重要視されています。

私自身、自分の会社の採用にSNSを活用していますが、現時点では、採用におけるリスクは高まっているのではないかと考えます。

未来の人事・採用担当者に求められるもの

最近、新しい採用テクニックとして注目されているのは、応募者が企業との相性を自分自身で測ることができる機会づくりや、そのような情報提供を行うというものです。

そもそも、採用において、より多くの応募者を募ろうとする考えは大きな間違いです。何らかの絞り込みを行わなければ応募者が増え、コストだけでなく、採用ミスを犯す確率が高まります。

そこで、「この会社は自分に合う、合わない」といった、応募者によるセルフセレクションが重要になってきます。

たとえば、ある企業では、応募者がコンピュータゲームによって仕事をバーチャル体験し、質問に答えることで自分のコンピテンシーを測定し、企業への適性がどのくらいあるかを知ることができる適性テストの仕組みを作りました。

この適性テストの面白いところは、測定結果を企業が記録・把握しない点です。結果を見た応募者が、自ら「この会社は自分には合わない」ということに気づき、応募をやめることを狙ったものだったからです。

応募者の価値観や規範を、企業側がテストするのは難しいものです。そこで、逆に応募者のセルフセレクションを可能にするツールへの投資が、今後、必要になると考えています。

そのためには、企業は採用ブランディングを明確にし、自社で得られる就労経験やワーク・ライフ・バランス施策など、他社との違いを示すことがより重要になってくるでしょう。また、「どこに応募者が存在するのか、どのような企業が同様の採用システムを導入しているのか」など、高い市場調査力も求められます。

これからの人事・採用担当者には、マーケティングと同様に、ブランディング、パッケージング、説得力といった能力も必要となってくるでしょう。そして、心理学や人口構成などにも精通した人材が、優秀な人事・採用担当者になるのではないかと推測しています。

プロフィール

ピーター・キャペリ氏(Peter Cappelli)

ペンシルベニア大学ウォートン・スクール・オブ・ビジネス教授

コーネル大学で労務管理を学び、フルブライト奨学生として留学したオックスフォード大学で博士号を取得。マサチューセッツ工科大学、カリフォルニア大学バークレー校、イリノイ大学で教鞭をとったのち、現職。雇用関係について数多くの論文を発表。著書に、『雇用の未来』『ジャスト・イン・タイムの人材戦略』(ともに日本経済新聞出版社)など。