株式会社アキ工作社 代表取締役社長 松岡勇樹氏

地方から新しい働き方を提案する「国東時間」

2016年09月23日

週休3日制で新しい働き方を目指す

アキ工作社は廃校になった旧西武蔵小学校を拠点に事業を行っている

大分県の北東部、円形状に突き出ている国東半島のほぼ中央、大分空港から車で約20分の安岐町にアキ工作社はある。同社が手がけるのは段ボールを輪切り状にして並べ、マネキンや動物、恐竜、キャラクターなどの形に仕上げるペーパークラフトキット。著名なキャラクターの組み立てキットなどがメインの商品で、他に贈答用のシャンパンを入れるペンギンの形の「シャンペンギン」やハムを贈る「ブタハム」などが人気だ。同社は廃校になった小学校を委託管理する形で2009年から開発・製造の拠点とし、国内外の市場へ製品を出荷する。ニューヨークやパリでも販路開拓を進め、現在海外売上は約20~25%を占める。「空港から車ですぐですし、格安航空便も就航していて東京へも安く行けるので、大分市内に行くよりもかえって便利なくらいです」と笑うのは同町出身で代表取締役社長の松岡勇樹氏。松岡社長の発案により、アキ工作社では2013年6月、「国東時間」という週休3日の変形労働時間制を導入した。月曜日から木曜日までを出勤日とし、金曜日から日曜日が3連休となる。そのかわり、それまでの午前8時~午後5時の8時間勤務(1時間は休憩時間)から午前8時~午後7時までの10時間勤務に延長した。週間の労働時間自体は40時間で変わらないため、給料もそのままとした。

東京は東京、国東は国東の固有の時間がある

「国東時間」を始めたきっかけは、東京、ニューヨーク、パリなどの都会の時間に合わせて仕事をしていると24時間対応となって休み時間がないような状態になってしまっていたことから。「大好きな釣りも1年に1回行けるかどうかで、まるで他人の時間を生きているような感じでした。このまま"市場の時間"で自分たちの仕事をしていていいのか?という思いが募りました」と松岡社長。東日本大震災の影響もあって、大災害や大きな経済変動の時に都市と同じような仕事の仕方をしていては、日本全体が潰れてしまうのではという危機感も抱いた。「東京は東京、国東は国東の固有の時間があるはず。その固有の時間を積極的に身体の中に取り込んで、休日は農作業や地域の活動の輪に入ったり、セミナーや習い事の時間に充てたりすることで、個々がより創造的な仕事ができるはずだと考えました」(松岡社長)。経営的には「国東時間」を導入して製造部門の稼働日が減っても、生産量を落とすわけにはいかない。1日の労働時間がタイトになるため反対意見も予想していたが、社内の会議で提案をするとみんなが「やってみたい」という方向で一致した。翌週から週休3日制がスタート、同時に定年制も廃止して現在に至っている。

2016年7月からは1日8時間×4日制に

「一週間のうち会社で過ごす4日間は、全員が会社に集まって知恵や技術をお金に変えるための時間。残りの3日間は地域で過ごし、自分の感性を高めることに使う時間。2つはオンオフの関係ではなくて、互いにフィードバックし合い個の能力が高まることで、ひいては会社の技術や業績の向上につながると考えています」と松岡社長。社内の会議は週2回のみ。その週の仕事をより正確により効率的に行うため、月曜朝8時の朝礼で4日間のタスクを書き出して確認し、その設定目標の達成度合いを木曜日の終礼で確認する。金土日と会社は休みだが、国内外のクライアントは動いているため、スマートフォンなどで稼働状況はチェックできる状態にしている。「3日間完全にブランクだと月曜日のスタートアップに時間がかかってしまうので、3日間も仕事の状況は確認できるようにしています」と松岡社長。導入の翌年は売上高が約30%上がったが、労働時間は約5分の4となった。以後は年ごとに業績のばらつきはあったものの週休3日制は定着、2016年7月からは1日10時間を1日8時間、週32時間制としてさらにワークスタイルを進化させている。

最大の成果は生産効率のアップ。地域共同体の再構築にも挑戦

週休3日制導入にあたってはクライアントの反応が心配されたが、半年ほどで理解が深まり「そういう仕事の仕方はいいですね」と各社の賛同を得ることができ、金曜日に電話が鳴ることも減った。導入後3年間の最大の成果は、製造ラインでの「無駄」がなくなったこと。互いに緊密なコミュニケーションを取り合うことで生産品目が多様化しても柔軟に対応し、隙の無い生産管理を実現した。夏冬のギフトシーズンなど生産のピーク時に限っては、金土日もラインを稼働させることで逆に生産のキャパシティアップにつながった。休日の利用方法については、少年サッカーのコーチをやる人や実家の田んぼ・畑などの農作業などに充てる人などいろいろ。松岡社長自身も地元の大学のワークショップで講演を行ったり、地域のコミュニティで70~80代の人々に交じって草刈りやお祭りの準備に参加したりしている。「過疎化とともに村落共同体の解体が進む中で、会社自体が共同体の一員でありたいというのが私たちの考え方。共同体の再構築も『国東時間』の一つの目的で、1年目から『時祭(ときのまつり)』というお祭りを企画しています。3日間の休みを利用して準備を進め、地域の新たな盆踊りを創るなどして盛り上げています」(松岡社長)

地方に「スタートアップコミュニティ」を創る

グローバル競争が激化する中で、モノづくりのための拠点を地方に誘致することは困難な状況にある。地方創生のためにはアキ工作社のようなオリジナルの価値を創造できる企業が地方に生まれ、根付き、そこに20代、30代の若者を呼び込むことが必要だ。現在の40~50代が高齢化した時に果たして今の社会水準をキープできるのか、非常に危機感を覚えると松岡社長は危惧する。企業としてはより精緻で丁寧なモノづくりを進め、スキルを蓄積し、内外での評価を高めてお金と交換できるようにする。それと同時に『週休3日制』のような働く人のライフスタイルを重視した制度を用意し、若い人材を呼び込む必要があるとも語る。「廃校利用の取り組みは前市長の時に始まったのですが、入居しているのはウェットスーツで湯たんぽを作るなどユニークな企業が多いですね。今、世界各地にシリコンバレーのようなスタートアップコミュニティが存在します。そういうコミュニティがこういう里山にあってもいいし、できつつあるのではないかと思います」と松岡社長は最後に未来への期待で締めくくった。

プロフィール

松岡勇樹氏

株式会社アキ工作社 代表取締役社長

略歴:
・1990年武蔵野美術大学建築学科修士課程修了
・同年T.I.S&PARTNERS入社(1993年退社)
・1995年ニット展示会のためにd-torsoプロトタイプを制作
・1998年有限会社アキ工作社設立(現在は株式会社)
・2001年2001-02 グッドデザイン賞受賞
・2005年第二回大分県ビジネスプラングランプリ最優秀賞受賞(賞金1500万円)
・同年ユーロショップ2005出展(ドイツ、デュッセルドルフ)
・2007年経済産業省から「元気なモノつくり中小企業300社」に選ばれる。
・2009年国東市安岐町富清へ社屋新設