企業調査の担当者からみた、人事部のこれから 久米功一
株高、円安、そして、人事
2015年2月、日経平均株価がほぼ15年ぶりの高値に上昇した。企業の収益力への期待か、金融緩和の効果か、その評価は分かれるところだ。円安による収益増加に沸く声も聞かれる。いずれにしても、資本の行方に、実物部門が一喜一憂する状況となっている。
この背景のひとつには、企業そのものの実態の変化がある。市場の再編、株主からの圧力、企業法制の整備などを背景として、1990年代後半から、企業の合併・買収、分社化が活発になった。東証一部企業に占める持株会社の割合も10%を超えている。
こうした変化は企業の人事部にどのように影響しているか。東証一部上場企業に対する調査から垣間見られた、日本企業の人事部の姿を通して考えてみたい。
人事部の所掌範囲はどこまでか
各社の資本政策が、組織の形と人事の姿を変化させている。企業合併・買収の結果、異なる人事制度が併存する企業も出てきた。企業調査において「貴社の人事制度」と問われても、ひと括りにして答えることが難しくなっているのだ。事実、「どの範囲を答えればよいか」と、調査協力していただく人事パーソンからの問い合わせも増えた。
「ワークス人材マネジメント調査2013」では、ご回答いただいた東証一部上場企業238社のうち、持株会社やグループ本社113社に対しては、人事部門として管轄・所管している範囲を確認している。その結果は、表1の通りだ。注目されるのは、所管・所掌している企業数だ。連結対象企業群の人事制度に目配りしている持株会社・グループ本社人事は、平均18.0社を管轄・所管している。単一企業内だけでなく、複数企業間の人事制度の整合性にも配慮しなければならない。同じグループ企業とはいえ、企業の垣根を越える別会社における人事制度の実運用まで見通そうとするならば、人事には、より広い視界とより細やかな対応が求められるだろう。
人事部門の適正な人員規模はどれくらいか
一方、社内においては、女性、高齢者、外国人等、従業員が多様になり、人事制度の複雑化・個別化が進んでいる。前述の「ワークス人材マネジメント調査2013」においても、導入済みの人事制度を把握する設問には、人事制度に関する選択肢が40近くも並んでいる。
これに対する人事部門の人員の規模感はどうだろうか。同じく表1に、人事部門の人員が正社員全体に占める割合を示す。全体平均では1.9%、1000人企業で人事部門人員は19人と試算される。なお、企業規模が大きいほど、規模の経済効果が働いて、人事部門の人員比率が低下する(1%を下回る)。
企業の境界の変化に注意しながら、社内では複雑化・個別化した人事制度への対応に迫られている。にもかかわらず、メリハリのない人員配置で、人事としての打ち手を講じられていないのではないか、筆者はそのような懸念を抱かずにはいられない。
人事部門はどこに向かうのか
このような状況への対応として、採用や人材育成の権限を現場に委譲し、ルーティン業務はアウトソースして、人事は戦略/企画業務に注力すべきだとの意見がある。そしてその方向に進んでいる現実もある。しかし、筆者はある種の危惧も感じている。それは、人事の役割が経営企画や財務に対して従属的になり過ぎる可能性である。「これまでの日本企業にみられた経営企画・財務・人事の三者による牽制関係に変化が起きているかもしれない」とは、島貫智行・一橋大学准教授の談だ。合併・買収、分社化等で組織変更が起こるたびに、人事は、人員調整に対応し、人事制度を再構築して、経営に大きく貢献してきた。
しかし、その反面、人事のにらみが利かなくなってきているといえないだろうか。
日本企業の成長の源泉には、豊富で良質な人材があった。その経営の中心には「人」がいた。それを人事が主導してきた。「ワークス人材マネジメント調査」の担当者として、人事部門の管轄・所管する範囲や人事部門の規模の数字を眺めているうちに、経営における人事の立ち位置が少し脇へずれて来てはいまいか、そのような想像が頭をよぎった。
久米功一
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