株式会社ローソン 理事執行役員ヒューマンリソースステーションディレクター補佐 大隅聖子氏(後編)

2014年11月27日

なかなか殻を破れない日々
きっかけはリベラルアーツとの出会い

大隅氏はローソンに入社してから順調にステップアップしてきた。その要因は、「オーナーの複数店舗化」を着実に実現してきたという業績への評価である。

そして、晴れて役員の列に名を連ねたのは入社から6年が経った2012年3月。理事執行役員法人戦略本部、副本部長に就任した。そして同年4月には、理事執行役員ヒューマンリソースステーションディレクター補佐に就任し、ダイバーシティ担当も担うことになった。順風満帆に見える大隅氏の成果と昇進であるが、当事者にとってはそうではなかった。自分自身に自信が持てない。それが何より大きな壁となった時期があった。

「部長になった後、役員になるまでにはすごく苦労しました。足踏みというのか躊躇というのか。とにかく一番困難なステップになりました」

身近にロールモデルがあるわけではなく、「もっと昇進したい」あるいは「もっと上でやっていける」というイメージもはっきりとは持てない。自分は、より高いポジションに就く器だろうか。そう思い悩む姿が、周囲には覚悟が決まっていないように映ったかもしれない。と大隅氏は当時の自分の姿を評している。

「本人に実力があったとして、最終的には上席の誰かが引き上げて昇進するわけです。ただ、引き上げようにも、本人が自信を持てないでいる間は引き上げられない。問題はそこだけなのです。本人が変わらないといけないのです。一皮剥けるといいますか突き抜けないといけない」

自信を持てずにいた大隅氏が変わるきっかけになったのは、教育だった。ISLという経営者教育プログラムに参加し、哲学や歴史、政治などのリベラルアーツを学んだ。

「リベラルアーツを学ぶことで、人間の心は落ち着くのだということがわかりました。例えば貧困の問題や宗教、宇宙について等、そこで学んだことのほとんどはビジネスと直結しないことが多かった。にもかかわらず、学んだことで、それまでいくら本を読んでも見えてこなかったものが、見えるようになりました」

リベラルアーツとの出会いは、それまでの混沌とした考えをまとめ、そして迷いを振り切るきっかけとなったそうだ。自分がすべきことをはっきりと認識できたとき、大隅氏の役員への昇進が決まった。

リーダーであることを認識して得た
自分自身のリーダー論

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「リーダーというのはなろうと思わなければなることはできないけれど、なろうと思っているだけでなるものではないということが分かりました。やりたいと思うことがあって初めて、人がついてくるものなのですね」

このように語る大隅氏は、自身の足跡を振り返ってこう評している。社会の中で、会社の中で課題を発見し、それを多角的に分析して、より多くの人のためになる解決の道を探り、それを実行する。結局のところ、それができる人だけがリーダーになっていく。得た結論は次のようなものだった。

「リーダーの格とは?」「リーダーとしてどうあるべきか?」「自分をどう見せるか?」過去には「リーダーになるために」と、さまざまなリーダー論を読んだこともあったし、それについてあれこれ思い悩んだこともあったが、そこに答えはなかったそうだ。

従業員を大事にすることの大切さは、
自身が身をもって知っている

自分を変えるチャンスを与えられ、変化を実感し、それとともに役員への昇進を果たした大隅氏のそうした実体験は、ダイバーシティを考えるいまの仕事にも繋がっている。

「いま、私の仕事は30代後半から40代に差し掛かる従業員のなかから、誰を部長にして、誰を役員にして、というように見極めるというものです。育成したり、突き抜けさせたりするにも、それぞれみんなトリガーが違います。一人一人と話をしていくと、意外なところに原因があったりするものです」

いま、ローソンで働く人財(※2)は多様化している。サラリーマンという言葉が象徴するように、かつての日本においては、会社で働く人=男性という固定観念が強かった。中には「体育会系でなければ認めない」などという極端な声もあった。しかし、いまや男性だけでなく女性も、日本人だけでなく外国人も、体力のある体育会系人材だけでなく超文化系人材も、さまざまな人材がいる。多様な人材に対しては、多様な価値観を持ってそれぞれの資質を見極め、サポートし、育成していく必要があることは言うまでもない。さらに組織は、それができる人材の育成という、メタレベルの課題も存在する。

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大隅氏は、ローソンではそれが達成されつつあるという感触も得ている。

「まだできていないけれども、いいところまで来ていると感じます。みんな幸せそうに働いています」

「みんなの中に、会社から大事にされているという感覚があるのではないでしょうか」

社内のリーダーを育成するローソン大学の存在は大きい。大隅氏自身がリベラルアーツを学んだことで、殻を破ることができたように、教育機能の充実は、それぞれの人財にとって、将来設計、目標設定を後押しする大きな力になりえる。そして、そこからは安心感とモチベーションが生まれると考えている。

大隅氏はそれを、「会社からの愛情」と表現した。多様な人財を受け入れ、育成に投資し、働きに見合った待遇を与える。理想を追求しようとする会社の姿勢は、従業員にも伝わっていると感じる。結果、幸せそうに働く姿の現実が、ローソンには存在するのである。

「教育熱心で従業員が会社を信じている会社は、ポテンシャルが高い。企業の中で、新卒のころからきちんとすり込まれたものは大きいと思います。ローソンにもそういうものが脈々とあって、みんなお客様のこと、会社のことを本当に真剣に考えているのです」

キャリア採用だからこそできる改革を成し遂げた大隅氏。その成功は、従業員をサポートし、育てる会社の姿勢があったこそのものだった。そしていま、経営側の人間として、大隅氏は従業員へのサポートと育成のしくみをさらにアップグレードしようとしている。

 

(注釈)
※2 株式会社ローソンでは人材を人財と表記する。本稿において、文中はすべてその表記に準じている。

 

TEXT=森裕子・白石久喜 PHOTO=刑部友康

プロフィール

大隅聖子

株式会社ローソン/理事執行役員ヒューマンリソースステーションディレクター補佐

略歴:
2005年12月 株式会社リクルート退社
2006年 株式会社ローソン入社 開発統括本部 オーナー開発部長
2007年3月 現場改革ステーション シニアリーダー
2008年3月 営業推進統括補佐
2009年3月 開発本部 本部長補佐
2010年 3月 支社サポート本部 本部長補佐
2011年 3月 FC・総務ステーション ディレクター補佐
2011年 7月 MO推進本部 本部長補佐
2012年 3月 理事執行役員 法人戦略本部 副本部長
2012年 4月 理事執行役員 ヒューマンリソースステーション ディレクター補佐(現任)