上司とのコミュニケーション機会の充実度が仕事満足にもたらす影響

2022年03月18日

失われた「受け身の職場学習」

テレワークが進む中、オフィスワーカーはほとんどの仕事がテレワークでも不自由なく進められることがわかってきた。その一方で、テレワークでは難しい仕事の1つとして、新入社員の育成の問題があげられている。

平時であれば、新人は入社前後から開始される研修を受け、同期と切磋琢磨しながら少しずつ仕事のやり方を覚えていくことになる。研修期間を通じて、組織風土やそこで働く人たちの人となり、社内用語、職場のコミュニケーションスタイルや協働に向けたやり方を学んでいく。自ら積極的に情報を取りに行かなくとも、受け身の状態で自然と得られる情報が多くあった。しかしながらコロナ禍の中で入社した新人たちは、そうした「受け身の職場学習」の機会が得にくい。年配者とテレワークのデメリットについて会話をすると、事例としてよく出されるのが「喫煙室(=たばこ部屋)」での会話の喪失だ。喫煙室でたばこを吸う者同士のインフォーマルなコミュニケーションによって、組織の壁や階層間の壁を越えた知識の交換が行われるため、喫煙者と非喫煙者では社内情報の保有度合いに差が出ていた。社内情報における「暗黙の了解」の量が異なるため、情報の背後にある文脈理解の程度が大きく異なる。平たく言うと、インフォーマル・コミュニケーションがあることで、仕事が進めやすくなったり、エンゲージメントが高まり、「何のために今この仕事・行動が必要なのか」という仕事の意味付けもしやすくなることが考えられる。

本プロジェクトでは環境変化の下で入社した新人の適応プロセスに着目し、コロナ下入社者と、それ以前の入社者との学習プロセスの違いを明らかにすることを試みる。特に本稿では、2020年度入社者の上司とのコミュニケーション機会の充実度が彼らの仕事満足度や達成感にもたらした影響を明らかにする。

入社直後から約半数が在宅ワーク。自宅待機で研修も仕事もなかった人は12.7%

まず、本調査協力者のプロフィールを確認しておこう。
本調査は、従業員300名以上の企業に所属する最終学歴大卒以上の総合職の男女に対して行われた。2020年度入社者394名、および対象群として、2018年度入社者405名、2016年度入社者413名に大学時代、内定者時代、入社直後の1年間について尋ねている。調査は2021年3月に実施された(調査概要は下部)。

2020年4月から2021年3月の新人の出社状況を見てみると、緊急事態宣言下でも43.7%が毎日出社していた。宣言が出ていない時の出社は55.3%であった。

図表1 2020年4月から2021年3月の出社状況(2020年度入社者)
図表1 2020年4月から2021年3月の出社状況(2020年度入社者)
入社時の勤務場所について複数回答で尋ねたところ、オフィス勤務経験者は71.3%、在宅勤務経験者は37.8%、自宅待機で研修も仕事もなかった者が12.7%であった。

図表2 入社時の勤務場所(2020年度入社者)
図表2 入社時の勤務場所(2020年度入社者)

2020年度入社者は特に入社直前に感染者数が拡大したこともあり、自宅待機で「研修も仕事もなかった」と回答している者が12.7%であることから、多くの企業において入社直後の研修や育成方法についての方針が固まらないまま入社を迎えたものと考えられる。
以降では、職場のコミュニケーション機会について他年度入社者との違いを明らかにすることで、2020年度入社者の状況をよりクリアにしていこう。

上司との1on1では、コミュニケーション機会はむしろ充実していた

日々の仕事をどのように進めていたのか。仕事の進捗報告とフィードバックの状況を明らかにするために、日報による業務報告の有無について入社年次間の比較を行ったが、2020年度入社者と他年度の者との間で、日報による業務報告の有無について有意な差は見られていない。ただし、2020年度入社者は、「在宅勤務あり」と回答したほうが、日報による業務報告が「あった」と回答する比率が高い。在宅勤務である分、より頻度高く業務内容についてのやりとりが行われていたと考えられる。

図表3 日報による業務報告の有無
図表3 日報による業務報告の有無

図表4 日報による業務報告の有無(2020年度入社者/在宅勤務の有無別)日報による業務報告の有無(2020年度入社者/在宅勤務の有無別)
彼らは上司とどのくらいの頻度で会話をしていたのか。2020年度入社者と他年度入社者のコミュニケーション機会の充実度を比べると、大きな違いはなく、むしろ2020年入社者のほうが、コミュニケーションが「十分だった」「どちらかといえば十分だった」と回答する者が多い。

図表5 コミュニケーション機会の充実度
図表5 コミュニケーション機会の充実度
しかし、2020年度入社者のうち、「在宅勤務あり」の者と「なし」の者を比較すると、「在宅勤務あり」のほうが、「十分だった」または「十分でなかった」と回答する比率が高く、個人差が見られている。

図表6 コミュニケーション機会の充実度(2020年度入社者/在宅勤務の有無別)
図表6 コミュニケーション機会の充実度(2020年度入社者/在宅勤務の有無別)

次に、入社1年目の上司とのコミュニケーション機会の充実度と、仕事満足・達成感の関係を分析した。その結果、以下の通り、現在の仕事満足・達成感のどちらも有意な差が見られ、特に、仕事満足については、コミュニケーションが「十分だった」群の平均スコアが10点満点中、7.18だったのに対し、「不十分だった」群の平均スコアは5.15と、2点以上も異なることが示されている。

図表7 上司とのコミュニケーション機会の充実度×仕事満足・達成感(2020年度入社者)
上司とのコミュニケーション機会の充実度×仕事満足・達成感(2020年度入社者)

テレワーク環境の1on1では感情的情報を得られる関係性の構築を

これらの分析から明らかになったのは、上司との1on1のやりとりは他年次とは変わりなく行われているということ、特に入社時点で「在宅勤務あり」の新人に対しては、より多くのかかわりが行われていたということ、その結果として、2020年度入社者は上司とのコミュニケーション量に不足だと感じる者が少ない傾向にあるということだ。ただし、「在宅勤務あり」の新人については、上司とのコミュニケーション充実度の個人差が大きい。つまり、テレワークにおけるコミュニケーションの質にばらつきがあったということだ。また、入社1年目の上司とのコミュニケーションの充実度は、1年後の仕事満足および達成感を大きく左右していた。この結果からは、オンライン・対面問わず、いかにしてコミュニケーションを充実させるか、ということが新人の今後の成長を考えるにあたり、大きな課題であるということがいえよう。

オンラインであっても、1on1のやりとりであれば、コミュニケーションの量も質も調整しやすい。しかし、オンラインと対面では得られる情報量が異なることを前提にする必要がある。過去の研究によると、人やものに繰り返し接すると好感度が高まる効果があるとされている(ザイアンス効果)。頻繁に会う人を好きになり、潜在記憶が印象評価に誤って帰属されるのだ(Zajonc,1968)。しかし、接する機会が少なくなると、ザイアンス効果で高まっていた好感度を上げる機会が減るため、その分、丁寧なコミュニケーションを心掛ける必要がある。
yahoo社の例にもあるように、職場には、仕事そのものに関わる認知的情報と、メンバーの言動に関連した感情的情報とがあり、オンラインだと、後者の感情的情報が伝わりにくいと感じるケースもあるだろう。そのため、感情的情報を積極的に得ようとしなかったり、無視したりすると、メンバーとの関係性の変化に気づくことができず、いきなり離職意向を伝えられたり、精神的な不調を未然に防ぐことができなかったりすることもあると考えられる。普段から感情的情報を得られる関係性を構築しておくことが肝要だ。

辰巳哲子

 

調査概要
〇対象
従業員300名以上の企業に所属する最終学歴大卒以上の総合職の男女
(2020年度入社者 394名 2018年度入社者 405名 2016年度入社者 394名)
〇調査時期
2021年3月19~25日
〇調査内容
予備調査の結果から仮説を生成。大学での学び方、内定時期の企業とのコンタクト状況、入社後の働き方や上司・同僚のサポート状況・学び方を尋ねた。

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