就業時間と収入からみるフリーランスの働き方 小前和智
時間や場所にとらわれず、企業にも雇われず、仕事を請け負って働くフリーランス(注1)。自らのワークスタイルに合わせた就業が可能とされる。本稿ではJPSED2018~2021の4か年分のデータを用いて、どのような理由からフリーランスとなり、就業理由に対応した働き方とはどのようなものなのか、週就業時間と収入に着目して論じたい。
JPSEDでは現在の仕事に就いた理由を尋ねている。表1には最もあてはまる理由(単一回答)とあてはまる理由(複数回答)の構成比をそれぞれ示した。最もあてはまる理由(単一回答)で最も多いのは「自分の都合の良い時間に働きたいから」であり、フリーランスの3分の1近くがこの理由を挙げている。次に多いのが「専門的な技能等をいかせるから」であり、3割弱を占める。この2つの理由で6割以上を占めており、あてはまる理由(複数回答)でみても、「自分の都合の良い時間に働きたいから」は半数以上、「専門的な技能等をいかせるから」は4割近くというように、フリーランスを選択する多くの就業者が専門性を生かしつつ、時間的な自由度を求めていることがわかる。
表1 フリーランスの就業理由の構成
対象:20歳以上の既卒者
JPSED2018~2021の4か年分を使用
ウエイトは各年の集計ウエイト(xa)を使用
表2には、理由別に週就業時間と1時間あたりの収入額を算出し、それらによって9つの理由を4つの類型に分けた。「家事・育児・介護等と両立しやすいから」と「自分の体調で就業可能な仕事だから」は、20時間程度の週就業時間であり他の理由で就業しているフリーランスよりも短いことから「短時間タイプ」とした。このタイプは1時間あたりの収入が他のタイプよりも少ない。「短時間タイプ」が短時間で働くことに重きを置いており、そのために収入の少なさも許容する場合が多いためと考えられる(注2)。
2つ目の類型として、「通勤時間が短いから」「自分の都合の良い時間に働きたいから」と「家計の補助・生活費・学費等を得たいから」を「バランスタイプ」とした。このタイプは週就業時間が平均27~28時間程度で、1時間あたりの収入が1800~2000円ほどである。フルタイムの雇用者として働くよりも短い就業時間でありながら、パート・アルバイトとして働くよりも高い収入が見込まれる。
3つ目の類型として、「専門的な技能等をいかせるから」と「家業だから・家族が事業をしているから」を「専門・ノウハウ保有タイプ」とした。先の2つの分類よりも就業時間は長く、平均で30時間を超えており、1時間あたりの収入も平均で2000円を上回る。自らが培ってきた専門性あるいは親族のもつノウハウを生かしつつ、柔軟な働き方を選択している層とみることができるかもしれない。
最後に、これら3つの類型には属さないものを「その他タイプ」としてまとめた。正規雇用を望んだものの不本意ながらフリーランスとして働いている者や上記の理由以外の様々な動機で働く層である。
以上、理由別の週就業時間と1時間あたり収入から分類を行った。ただ、同じ理由であっても全く異なる働き方をしているフリーランスはいる。ここでの分類は、理由別にある程度の「傾向」が観察され、その類型間を比較するだけでも幅広い働き方が観察できることを示している。
表2 フリーランスの就業理由別週就業時間と1時間あたり収入
対象:20歳以上の既卒者
JPSED2018~2021の4か年分を使用
ウエイトは各年の集計ウエイト(xa)を使用
表2の分析では、週就業時間と1時間あたりの収入からフリーランスの働き方を観察したが、1年間ではどのくらいの収入を得ているのだろうか。図1にはタイプ別の年収分布を示した。分布が最も左側(低収入側)に偏っているのは「短時間タイプ」であり、年間100万円未満で半数以上、300万円未満で8割を占める。平均では146万円である。
「専門・ノウハウ保有タイプ」では、100万円未満が2割程度存在する一方で、500万円以上も2割を占めており、幅広い。また、このタイプはフリーランスのなかで年間収入額の高い層が多いため、平均年収は313万円である。ただ、正社員と比較すると、200万円未満の割合が多い一方で高収入側の割合が相対的に低いことを反映して平均年収額では150万円ほど低い(正社員の平均年収額は463万円)。
「バランスタイプ」は「短時間タイプ」と「専門・ノウハウ保有タイプ」の中間と言える。100万円未満の割合が3割程度存在するものの、300万円以上の者も比較的多い。平均の年間収入額は242万円である。「その他タイプ」も「バランスタイプ」に似た形状の年収分布となっており、平均年収は267万円である。
以上、現在の仕事に就いた理由を週就業時間と1時間あたりの収入で分類した。もちろん、同じ就業理由であったとしても本人の望む働き方が同じとは限らず、留意が必要だ。ただ、4つの類型に分けるだけでも、就業理由に応じたワークスタイルを模索していることがわかる。フリーランスの「とらわれない」働き方とは、個人のスタイルに合わせて労働供給量を調節できることであり、その負担の大きさに見合った対価として報酬を得ている姿が垣間見られた。
図1 類型別の年収分布
対象:20歳以上の既卒者
JPSED2018~2021の4か年分を使用
ウエイトは各年の集計ウエイト(xa)を使用
凡例中の括弧内数値は年収の平均額(実質値)
(注1)本稿では、(1)雇人のいない自営業主または内職、(2)実店舗をもたない、(3)農林漁業(業種)に従事していない、この3つすべてを満たす者をフリーランスとした。
(注2)負担の小ささ(時間的な拘束が小さい)と引き換えに、高負担の働き方よりも収入が低くなることを均等化差異(あるいは補償賃金差)という。
小前和智(客員研究員)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。
※本コラムを引用・参照する際の出典は、以下となります。
小前和智(2022)「就業時間と収入からみるフリーランスの働き方」リクルートワークス研究所編「全国就業実態パネル調査 日本の働き方を考える2021」Vol.5(https://www.works-i.com/surveys/column/jpsed2021/detail005.html)