第一子誕生によって変わる生活時間、「仕事と家庭の両立ストレス」にどう影響する? 伊川萌黄
前回のコラムで、第一子誕生前後における家事・育児・労働時間の変化には男女間で大きな差があることを紹介した。このような大きな生活時間の変化が起きるなかで、当事者の「仕事と家庭の両立ストレス」はどのように変化するのだろうか。本コラムでは、第一子誕生前後において「仕事と家庭の両立ストレス」がどう変化するか、「全国就業実態パネル調査(JPSED)」からわかった結果を紹介したい。対象者は、誕生前後に就業中(育休取得中除く)であった回答者に限定する。
第一子誕生後、仕事と家庭の両立ストレスは10%ポイント強上昇
下の図1は、第一子誕生前後において「仕事と家庭の両立ストレス」を感じていた人の割合を男女別に示したものである。
図1:第一子誕生前後において「仕事と家庭の両立ストレス」を感じていた人の割合
出典:「全国就業実態パネル調査(JPSED)」(2017〜2021)
注:あなたは、昨年1年間、ご自分の仕事と家庭生活の両立についてストレスを感じましたか」という質問に対し、「強く感じていた」「感じていた」人の割合。誕生前後ともに調査に回答し、かつ就業中(育休取得中除く)の人を対象。誕生前後ともに3年以内を対象。サンプル数はカテゴリごとに異なり、約900〜7500。
図から、誕生前に比べると、誕生後に「仕事と家庭の両立ストレス」を感じていた人が男女ともに12〜13%ポイント程度増えていたことがわかる。また、女性のほうが男性よりも9%ポイント程度、両立ストレスを感じている人が多い。前回のコラムでみたように、第一子誕生後は家事・育児にかける時間が女性のほうが男性よりも4〜5時間半程度多いことを踏まえると、予想通りの結果と言えるだろう。
男女で異なる、「仕事と家庭の両立ストレス」の原因
それでは、具体的にどのような理由で両立ストレスを感じていたのだろうか。調査では、「両立ストレスを感じていた」回答者に、「ストレスを感じていた原因」として選択肢16個からあてはまるものをすべて選んでもらっている。下の図2では、ストレスを感じていた人がそれぞれの選択肢を選んだ割合を男女別に示した。また、第一子誕生前後の違いをみるために、図中の水色の丸では第一子誕生前に当該項目でストレスを感じていた人の割合を、紫の丸では誕生後の割合を示している。
図2:第一子誕生前後における「仕事と家庭生活の両立にストレスを感じた原因」 ※クリックで拡大します
出典:「全国就業実態パネル調査(JPSED)」(2017〜2018)
注:対象は、調査回答時に就業中(育休中除く)であった人。ただし、誕生前後のどちらか一方のみを回答した人を含む。
図から、男性と女性で両立ストレスを感じた原因に大きな違いがあることがわかる。
男性の場合には、第一子誕生後に両立ストレスを感じていた原因トップ3は「職場の人間関係」「仕事内容・責任の重さ」「労働時間・通勤時間の長さ/不規則さ」と仕事関係の事柄が並んだ。「子どもの世話」や「子どもと過ごす時間の不足」といった家庭要因を原因に挙げる回答者は第一子誕生後に大きく増加しているものの、原因のトップ3に並ぶ仕事要因の顔ぶれに変化はない。このことから、男性が両立ストレスを感じる主な原因は第一子誕生にかかわらず「仕事」にあると言えるだろう。
これに対し、女性の場合には「子どもの世話」「食事の支度」「自分の時間の不足」という家庭内の事柄が第一子誕生後のストレス原因のトップ3となった。これらの要因のうち、「食事の支度」は第一子誕生前においてもストレス原因のトップ3項目であるが、「子どもの世話」と「自分の時間の不足」については誕生前と比較して大きく増加しており、男性よりも増加幅が大きい。このことから、同じ就業状況にあっても、やはり家事・育児の負担は女性就業者の側に大きく偏っていると言えるだろう。一方で、仕事要因については、第一子誕生後に減少している。前回のコラムで見た通り、女性のほうが男性よりも労働時間を調整する傾向が高いことが背景にあるのだろう。
以上、今回のコラムでは第一子誕生前後における「仕事と家庭の両立ストレス」は女性就業者のほうが男性就業者よりも大きく増加し、またその背後には家庭要因の負担があることを紹介した。女性活躍が政策的にも推し進められるなか、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら個人が働くためには、家庭内の家事・育児でかかる負担をどのようにして減らすことができるか、が重要になるだろう。
伊川萌黄(客員研究員)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。
※本コラムを引用・参照する際の出典は、以下となります。
伊川萌黄(2022)「第一子誕生によって変わる生活時間、「仕事と家庭の両立ストレス」にどう影響する?」リクルートワークス研究所編「全国就業実態パネル調査 日本の働き方を考える2021」Vol.10(https://www.works-i.com/surveys/column/jpsed2021/detail010.html)