誰がフリーランスとして働いているのか  小前和智

2021年12月24日

フリーランスをどのようにイメージされているだろうか。「フリーランス白書2021」(フリーランス協会)によると、「家庭や自身の体調に合わせて、自分のペースで働き続けるためにフリーランスを選択する人が多い」という。時間や場所にとらわれず、企業にも雇われず、仕事を請け負って働く「フリーランス(注1)」とは、どんな人たちなのだろうか。

フリーランスの職業や働き方にフォーカスしたコラム「フリーランサーは就業者の7%、約440万人」によれば、2017年時点で本業をフリーランスとして働いている者の3分の1以上が専門職・技術職であり、雇用者と比較して専門職・技術職の多さが際立った。週労働時間では比較的短時間であることも示されている。

専門職・技術職が多い事実からは、自ら高めてきたスキルを活かし、独立して高収入を得るプロフェッショナルが浮かぶかもしれない。他方で、冒頭の「フリーランス白書2021」のようにワーク・ライフ・バランスを重視して働く層も多いだろう。そこで本稿では、JPSED2018~2021の4か年分のデータを用いて、年齢や家族との関係から、誰がフリーランスとして働いているかを分析する。

早速、年齢を切り口にフリーランスを観察してみよう。図1では20歳代を基準として、年齢別(10歳刻み)にフリーランスとして就業する確率を指数化した(注2)。図をみると、年齢が高くなるほどフリーランスとして就業する確率が高いことがわかる。基準となる20歳代と比べると、30歳代では1.28倍、40歳代では2.06倍、50歳代では2.91倍となる。スキルや人脈を十分に形成してから独立する専門職・技術職が想像される。

60歳代以降になると数字が急に跳ね上がる。60歳代は20歳代の6.91倍、70歳以降は18.7倍にも達する。定年退職後に士業の資格を取得したり、シルバー人材センターで仕事を得たりと、働き方は多様であるが、高年齢層では就業の選択肢としてフリーランスを選ぶ人も多い。

図1 年齢とフリーランスとして就業する確率
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【注】多項ロジットモデルの相対リスク比を掲載(すべて1%水準で有意)/ウエイトとしてxaを使用
対象:既卒者
被説明変数:フリーランス、雇用者(参照点)、役員・自営業主・内職(フリーランスを除く)、無業者
制御変数:性別、婚姻状態、子ども有無、学歴、都道府県、調査年

次に、家族形成との関係をみよう。ワーク・ライフ・バランスを重視した働き方としてフリーランスが選択されているならば、有配偶者や子どものいる人がフリーランスとして働いていると予想されるが、実際にはどうか。

図2は、配偶者の有無や子どもの有無との関係をみている。配偶者がいないほうがフリーランスとして就業する確率が高い。配偶関係とは別に、子どもの有無でみると、子どもがいないほうがフリーランスとして就業する確率が高い。これは、予想とは反対の結果であった。ワーク・ライフ・バランスだけを重視するのであれば、時間や場所にとらわれないフリーランスを選択する人が多いのではないかと考えられる。しかし結果をみると、フリーランスを選択するには他の要因も関係しそうだ。そこで今度は、配偶者がいる人に絞って分析をしてみる。

図2 配偶関係・子どもの有無とフリーランスとして就業する確率
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【注】多項ロジットモデルの相対リスク比を掲載(すべて1%水準で有意)/ウエイトとしてxaを使用
対象:20~59歳既卒者
被説明変数:フリーランス、雇用者(参照点)、役員・自営業主・内職(フリーランスを除く)、無業者
制御変数:性別、年齢、婚姻状態、子ども有無、学歴、都道府県、調査年

図3では配偶者の稼ぎに注目した。まず、主な稼ぎ手に着目すると、配偶者が主な稼ぎ手である場合、自らが主な稼ぎ手であるよりも3倍以上もフリーランスとして就業する確率が高い。次に、配偶者の年収との関係をみると、配偶者の年収額とのあいだには明確な関係がみられなかった。配偶者の年収の多寡よりも、配偶者が家計の主な稼ぎ手を担っていることがフリーランスに挑戦する、あるいは挑戦し続けるには重要であるようだ。これは、フリーランスでは収入が十分に得られなかったり不安定であったりすることと関係しているだろう。

図3 配偶者の稼得とフリーランスとして就業する確率
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【注】多項ロジットモデルの相対リスク比を掲載/ウエイトとしてxaを使用
対象:20~59歳既卒者
被説明変数:フリーランス、雇用者(参照点)、役員・自営業主・内職(フリーランスを除く)、無業者
制御変数:性別、年齢、子ども有無、学歴、都道府県、調査年
有意水準:* p < 0.1, ** p < 0.05, *** p < 0.01

図3での解釈を基に、図2の結果を振り返ってみよう。図2の結果では、フリーランスを選択するには、ワーク・ライフ・バランス以外にも重視される要素がありそうだった。これに対し、図3で有配偶者の稼得状況をみると、配偶者が主な稼ぎ手であることがフリーランスとして就業する確率を高めることがわかる。有配偶者の場合、本人がフリーランスに挑戦できるか否かは、もう一人の収入が家計にとって十分であるか、安定的であるかに依存すると考えられる。これから結婚や子育てを考えるフリーランスでは、結婚や子育てを機にフリーランスをやめ安定した収入を得ることを重視する、あるいはフリーランスの収入不安から結婚や家族計画を先延ばしにしているのかもしれない。こうした行動が、有配偶者や子どもをもつ場合にフリーランスとして就業する確率が低くなる(図2)といった結果をもたらしていると考えられる(注3)。そうであるならば、フリーランスとして働く際に生じるリスクの受け皿を用意する必要性がみえてくる。

以上、どのような層がフリーランスとして働くかについてみてきた。年齢による分析からは、スキルや人脈を築くことでフリーランスとして独立するチャンスを得る様子がうかがえた。他方で、そうした蓄積があったとしても、フリーランスの道は険しいのかもしれない。フリーランスでの収入不安を補うべく試行錯誤している可能性が垣間みえた。

(注1)本稿では、(1)雇人のいない自営業主または内職(2)実店舗をもたない(3)農林漁業(業種)に従事していない、この3つすべてを満たす者をフリーランスとした。
(注2)「相対リスク比」という。専門的な用語であるため、ここでは「フリーランスとして就業する確率」と表現した。
(注3)「男性は結婚を境にフリーランスをやめ、女性は結婚後にフリーランスに就く」といった男女の差を示している可能性もある。この点を確認するため、人口に占めるフリーランスの割合を性別・配偶関係別に調べると、男性・無配偶で5.5%、男性・有配偶で4.0%、女性・無配偶で2.4%、女性・有配偶で1.8%だった。男女ともに有配偶者よりも無配偶者の方がフリーランスの割合は高く、性別による明らかな差異は観察されないが、より詳細な分析が必要である。

小前和智(客員研究員)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。

 

※本コラムを引用・参照する際の出典は、以下となります。
小前和智(2021)「誰がフリーランスとして働いているのか 」リクルートワークス研究所編「全国就業実態パネル調査 日本の働き方を考える2021」Vol.4(https://www.works-i.com/surveys/column/jpsed2021/detail004.html)

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