統計が物申す

停滞する中堅層の賃金

2020年02月10日

「賃金構造基本統計調査(賃金センサス)」

全国の事業所に対する調査で、1948年から毎年実施されている。毎月勤労統計調査が月次の賃金を調査しているのに対し、賃金構造基本統計調査は賃金に関する情報を年次でより詳しく調べている。賃金以外にも、雇用形態や役職、勤続年数などのデータもある。

 

w158_toukei_001.jpg

年齢ごとの平均賃金を折れ線グラフで表したものを賃金カーブという。賃金構造基本統計調査で、これが長期的にどう変化したかを検証する。
20 ~ 24歳の平均賃金を100とした場合の賃金カーブを表したのが上のグラフだ。この直近の10年間で、賃金カーブが大きく変化したことがわかる。中堅層の賃金が相対的に減少しているのだ。45 ~ 49歳の賃金指数は、2008年の198.6から2018年の180.6まで20ポイント近くも低下している。
賃金カーブがへこんだ第1の要因は、若年層の賃金のベースアップにあると考えられる。多くの企業で人手不足感が強まるなか、優秀な若手を確保するため、若年層に対して重点的に賃上げしたため、中堅層の賃金は相対的に低下することになった。
第2の要因として考えられるのは、役職に就く年齢の変化の影響である。同調査を分析すると、45 ~ 49歳の雇用者のうち、部長職に就く人の割合は7.0%(2008年)から4.5%(2018年)に減っている。一方、55 ~ 59歳のそれは9.3%(2008年)から10.0%(2018年)と増加している。役職に就く年齢が明らかに上がっているのだ。その結果として、中堅層の賃金が抑制されたと考えられる。
役職に就く年齢が上昇している背景にあるものは何か。それは社内における高齢世代の社員の増加にある。高齢世代が増加し、そのまま役職者として残る人も増えている。優秀若手を採用すること、高齢者の活躍の場を増やすこと、そのはざまで中堅層が割を食う構図が生まれているのだ。
企業におけるこうした人口動態の変化はより若い世代にまで影響を及ぼす。現在、45 ~ 49歳はちょうど団塊ジュニアの世代にあたり、そもそも人数が多い。彼らが遅れて役職者になれば、それより若い世代も役職に就くのが難しくなる。
賃金と労働生産性は裏表の関係にあることも忘れてはならない。中堅層の賃金の低下は、同時に、中堅層の価値創造機能の低下を暗示している。受難の時代の中堅層を活躍させ、どう賃金を上昇させるのか、人事は考えるべきだ。

Text=坂本貴志