統計が物申す

理想の仕事は、 仲間と楽しく働ける仕事

2019年10月10日

「『日本人の意識』調査」

日本人の生活や社会についての意見の動きをとらえるために、NHKが行っている世論調査。5年ごとに同じ質問、同じ方法で調査を行っている。直近の調査は2018 年6月から7月にかけて実施され、1973 年の第1回から数えて10回目。

 

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個人の意識は、時代とともに移り変わる。仕事への考え方も同様だ。今回は、NHK「『日本人の意識』調査」を用いて、仕事に対する考え方がどう変化しているかを確認したい。
右図は、「どんな仕事が理想的だと思いますか」という設問に対して、最も理想的な仕事として選択したものの割合を示したものである。
まず、「失業の心配がない仕事(2018年は12.9%)」、「高い収入が得られる仕事(同8.9%)」は、その時々の景況感にも左右されるが、一定の割合で回答され続けている。多くの人が労働の対価で生計を維持しているのだから、妥当な結果であろう。
直近の調査で、最も回答割合が高いのは「仲間と楽しく働ける仕事( 同22.6%)」。1993年以降、トップの回答割合が続き、今なお上昇傾向だ。このほか、回答割合の高い選択肢に、「健康をそこなう心配がない仕事(同19.6%)」がある。1988年までは回答割合がトップだったが、長時間労働の改善に伴い回答割合が低下した後、最近の働き方改革の機運に乗じて再び割合が上昇している。「専門知識や特技が生かせる仕事(同16.4%)」は、2003年まで上昇傾向だった。1990年代後半以降、多くの会社が成果主義を導入し、人々がスキル習得や能力発揮への意識を高めたことと関連しそうだ。
データの変遷とその時代背景をみていくと、理想の仕事とされるのは、実際には満たされていない働き方の裏返しだということに気付く。そう考えると、仲間と楽しく働けるという条件こそが、現代の職場で、人々が最も満たされていないと感じているものだということになる。
気の置けない仲間たちと楽しく働ける活気ある職場。仕事の合間に同僚と雑談を交わし、時には上司の愚痴で盛り上がる開かれた職場。このような職場は、この数十年間で、日本企業が失ったものにほかならない。成果主義の拙速な導入とそれへのアレルギー反応、個人主義の台頭などが背景にあるのだろう。
昨今の働き方改革も、ともすれば職場の活気や余裕を奪いかねない。必要な改革を行いつつも、活気ある職場を取り戻す手立てはないのだろうか。それをあらためて考えてみたいものである。

Text=坂本貴志