Global View From Singapore
第5回 D&IからDEIBへ 個人の幸福と事業の成長の両立を
D& I にEquity(真の公平性)とBelonging(帰属意識)の概念を加えたDEIBの重要性が注目されています。この背景には、人種差別撤廃運動の広がり、コロナ禍で加速した働き方の多様化などがあります。組織を構成する多様な人々が誰一人として疎外感を感じることのない状態がD&Iで、属性や働く条件を問わず能力を発揮できる環境がEquity。そして従業員一人ひとりが自分らしくいられることと、組織の目指す方向性が合致している状態がBelongingだと考えています。
我々がBelongingに注目したきっかけは、2018年のLinkedIn米国本社への視察です。組織の多国籍化が進むなか、同じ目的に向けて成果を上げるための施策を模索していました。ゲゼルシャフト(機能体組織)とゲマインシャフト(共同体組織)という概念のうち、会社は本来、前者であり、社会的な目的を遂行する集団です。不公平の是正、心理的安全性の担保は大前提ですが、事業である以上、成果も常に求められます。個人の幸福と事業の成長を橋渡しする施策としてBelongingが重要と考えたのです。
それまでも楽天グループでは、言語やバックグラウンドによる情報アクセシビリティの差が生じないよう、公的な通達は日英併記とするなどD&Iの取り組みを進めてきました。カフェテリア(社員食堂)ではハラル料理など固有の宗教・文化に配慮した料理を提供しています。またインクルーシブ・ランゲージも重要です。社員を「Japanese/Non-Japanese」と分類せず、「International」とするなど、特定グループを除外する可能性のある表現を避けるように努めています。また、タイムシフト(フレックスタイム)やリモートワークの推進は、Equityの実現に欠かせない基盤です。
同時に進めたBelongingの基本的な施策は、ビジョン・ミッションの浸透です。178号でご紹介した、100を超える国・地域出身の従業員が一堂に会するASAKAI(朝会)もその一環です。さまざまな考え方や経験の共有を通じて、企業文化への理解を深め、社員同士の関係を広げることを目的とするイベントも定期的に開催しています。こうしたDEIBに向けた施策は、結果として仕事のオンライン化などコロナ禍での急激な変化への対応にも役立ちました。
ただし、DEIBの実現には、人事と事業の両輪で進める必要があります。次号では、事業サイドからのアプローチについてご紹介します。
Text=渡辺裕子