コロナ禍でも堅調に増加したシニアの就業 茂木洋之

2022年12月19日

総務省「労働力調査」をみると、2021年の60~64歳の就業率は71.5%となり、10年連続で上昇し(図1)、2000年以降で最高水準となった。改正高年齢者雇用安定法(※1)が施行された2006年以降、リーマンショックで就業率が低下した一時期を除き、上昇傾向にある。65~69歳の就業率も同様に10年連続で上昇し、50.3%と高水準となっている。高齢者の就業率は順調に上昇しており、政府目標(※2)を上回っている。

図1 就業率の推移jpsed2022_8_1.png

出所:総務省「労働力調査」

図表は割愛するが、コロナ禍で経済が停滞した2020年の全体の就業率は60.3%と、2019年の60.6%から0.3%pt低下した。60歳未満のすべての年齢層で就業率は低下し、特に15~24歳の若年層の低下が目立った。飲食店・宿泊業などでのアルバイト労働が困難になったためと考えられる。そのなかで、高齢者の就業はコロナ禍でも好調だった。

男女別に高齢者の就業率の推移をみてみると、性別を問わず高齢者の就業率が上昇していることがわかる(図2)。特に女性の就業率の向上が著しい。2000年と足元の2019年を比較すると、男性60~64歳、男性65~69歳、女性60~64歳、女性65~69歳の就業率はそれぞれ17.6%pt、11.8%pt、22.8%pt、15.8%pt上昇し、男性よりも女性の就業率の伸びが大きい。高齢者における男女の就労格差も、徐々にだが狭まってきていると評価できる。

図2 就業率の推移(男女別)jpsed2022_8_2.png

出所:総務省「労働力調査」

リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)」を使用して、60~69歳の就業者の労働供給を観察しよう。労働日数は2015~2021年の7年間とも1週間当たり約4.6日でほぼ横ばいといえる(図3)。労働時間については、7年間のなかで最高の32.7時間となった。労働時間という意味でも、高齢者の就業は増加している。労働時間の分布をみたところ(図4)、コロナ禍前の2019年と比較して2021年は労働時間が30時間以下の短時間就業者の減少が目立つ。一方で36時間以上40時間以下のフルタイムに近い状態で働く労働者が増加している。以前は高齢者というと短時間のみの労働が多かったが、徐々にフルタイムで働く高齢者も増加している可能性がある。

図3 労働日数と労働時間の推移(60~69歳)図3 労働日数と労働時間の推移(60~69歳)

出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)2016~2022」
注:xa16~xa22を用いたウエイト集計を行っている。

図4 労働時間の分布(2015年と2019~2021年、60~69歳)図4 労働時間の分布(2015年と2019~2021年、60~69歳)

出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)2016、2020~2022」
注:xa16、xa20、xa21、xa22を用いたウエイト集計を行っている。

少子化による労働力の減少や、社会保障費の抑制による財政負担軽減のため、労働意欲ある高齢者に元気で長く働いてもらいたい。政府においては、高齢者が働くインセンティブをもつように年金などの社会保障制度の見直しを進め、企業も賃金システムの再考など現行制度の見直しを行う必要があるだろう。

 

※1 年金支給開始年齢の段階的引き上げに伴い、定年の引き上げや再雇用制度の導入など、企業は65歳までの雇用確保を義務づけられた。
※2 政府目標:2020年において60~64歳の就業率を67.0%まで上昇させる。

茂木洋之(研究員・アナリスト)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。

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