新たな働き方は職場での相談機会を減らすのか 三輪哲

2020年09月18日

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2020年の今、働き方はこれまでになく大規模な見直しを迫られている。とりわけ、新型コロナウイルス感染拡大を受けての、テレワークの推進はその最たるものであろう。移動や活動が制限されるためにテレワークせざるを得ないという消極的な姿勢がある一方で、この機会に新たな働き方としてテレワークを大いに導入していこうという積極的な姿勢もみられるようである。

さて、そうした状況下で、筆者自身もテレワークを初めてすることとなったわけだが、気になったのは、気軽な雑談の減少である。職場に行けば、ばったり会った誰かと話したり、あるいは話をするために部屋へと訪れる人がいたりと、たいていの日は予定をしていなかった会話時間があるものだった。そのような会話のなかには、仕事や人生に関する相談事があることも決して稀ではない印象がある。他方で、テレワークでは、雑談がほぼなくなるわけだが、それに紛れた相談の機会も同時に減少するのではないだろうか。この懸念を、2019年の「全国就業実態パネル調査(JPSED)」データを用いて検証してみたい(注1)。

従業員数30人以上の民間企業に勤める正社員に限定して(注2)、テレワークの制度の有無、および回答者本人が制度を適用されているかどうか、さらには適用されている場合には週当たり何時間テレワークをしているか、回答の分布を調べたものが図1である。

図1 テレワーク制度・適用と労働時間
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回答者のうちの7割超が、自分の勤め先はテレワーク制度がないと回答している。制度があるかどうかわかっていない者が1割5分ほどいることを考慮すると、さらにテレワーク制度がない割合は高いとみるべきかもしれない。ただし、この数値は2018年末時点のものであるので、2020年夏の現状では大きく変わっている可能性は十分にある。

制度があるとの回答は1割2分ほどだが、そのうちの半数以上は回答者自身がテレワークを適用されてはいないようだ。さらに適用されている者のなかでも、実際に週8時間を超えてテレワークしている者は少数派であることは一目瞭然である。

それでは、テレワークで働く者は、相談の機会が減るのだろうか。この点を、2019年の「全国就業実態パネル調査(JPSED)」でたずねられた「相談できる相手」の回答割合から探りたい。この質問は厳密には相談の頻度を示すものではないが、どういう相手が相談相手となりうるかは把握できるので、たとえば、職場の知人が相談相手として(相対的に)挙がりにくいことをもって、間接的に当初の問題へと答えることができよう。

図2が相談できる相手の回答割合で、テレワークの労働時間を基に分けたグループごとに、棒グラフで示している。全体的にみれば回答傾向は似ており、最もよく挙がるのが「家族」、次いで「職場・仕事の知人」である。グループ間の細かい違いを確認すると、テレワークを週8時間超行う人たちは、「家族」「家族以外の親族」「学校や自己啓発の知人」を挙げる割合が、他よりも高い傾向にある(注3)。他方で、「職場や仕事の知人」を挙げる割合は他よりも若干低い。

図2 「相談できる相手」の回答割合
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テレワーク8時間超のグループと8時間以内のグループとの回答傾向を対比するために、図表2にはオッズ比を折れ線グラフで示した。この値が1を超えるとテレワークを長く行っている人たちが相談相手として回答しやすく、逆に1を下回れば相談相手として回答しにくいということになる。テレワークを長く行うグループの人たちは、全体的には、相談相手を挙げやすい、すなわち相談機会が比較的多いということがわかる。これは、テレワーク可能な職種や立場ゆえのものかもしれない。そして注目すべきは、そのような基本的傾向と反して、「職場・仕事の知人」に限り、オッズ比が1を下回っている点だ。すなわちこれは、テレワークを長くする人たちほど、職場関係の相談相手が相対的に少なくなることを意味する。

2019年に実施された「全国就業実態パネル調査(JPSED)」のデータ分析から、中規模以上の民間企業の正規雇用者においては、テレワークによって職場での相談機会が減少する可能性が示唆された(注4)。この調査時点では非常に限定的であったテレワークも、今や大きく拡大しているならば、その影響が(良い面でも悪い面でも)もしあるなら社会生活にとって無視し得ないものとなるはずである。テレワークという新たな働き方がもたらすインパクトを、経済的な効率性のみならず、人と人とのつながりといった社会的な側面からも検討していくことは、今後重要さを増していくのではないだろうか。

 

(注1)以下の分析での相対度数の計算は、すべてクロスセクションウェイト(変数名XA19)をかけたうえでおこなっている。
(注2)2019年全国就業実態パネル調査では、2018年12月当時の働き方について、詳しい情報が得られている。
(注3)テレワーク8時間超のグループと8時間以内のグループとで、回答割合の差を統計的検定(イエーツの連続修正をしたカイ2乗検定)したところ、危険率10%で有意となった。
(注4)もっとも、カイ2乗検定では統計的有意にならず、他の影響要因を調整していない分析結果でもあるので、この結果だけから本当にテレワークは職場の相談機会を減少させるという結論を導くのは早計に過ぎる。さらなる検討が必要なところであろう。

三輪哲(東京大学社会科学研究所 教授)
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