60代以上も活躍できる転職市場の整備を 茂木洋之
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リクルートワークス研究所(2019)『再雇用か、転職か、引退か―「定年前後の働き方」を解析する―』のPart1では、中高年者のキャリア移行は50歳の時点ですでに始まっていることが示された。たとえば50歳時点で正社員の男性は、59歳のときに約3割の人が転職をしていることがわかった。彼らの転職前後の年収はどのように変化したのであろうか。転職の時期と年収の変化について調べてみたい。
リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2019」を使用する。50歳以上の男性かつ過去1~2年に転職した人を集計対象とする。また、年収の変化率が200%以上の人は外れ値とみなして除外した。
一般的に考えると、まだ体力的に自信がある50代に転職したほうが、60代で転職する場合と比較して、選択肢も多く、より高年収の仕事に就ける可能性が高いと予想できる。各年齢で転職した人の年収の上り幅を計算したものが図1となる。これをみると、定年を境とする60歳以降は転職しても賃金は大幅に低下することがわかるだろう。一方で50歳から59歳までは転職をしても年収はそこまで減少せず、50代前半に限ればむしろ増加する。60歳を過ぎると転職市場における評価が急激に低くなることがわかる。
図1 転職前後の年収の増減率(年齢別)
出典:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2019」
注1:xa19でウエイトバック集計している。
注2:50歳以上の男性かつ過去1~2年に転職した就業者を集計対象とする。また年収の変化率が200%以上の人は外れ値とみなして除外した。
次に、転職における、前職と現職の業種・職種の変化に着目した年収の増減率をみてみよう。結果は図2のようになった。50代については同業種内で同職種移動が最も年収の上り幅が大きい(+5.0%)。また、50代についてはやはり同業種内の転職のほうが年収の上り幅が大きい。同じ業種で蓄積したスキルをそのまま転用できるということだろう。異業種でかつ異職種間の転職であっても、50代であれば-8.6%と低下幅を抑えられている。
一方で、転職は60代になると、大きく年収を下げる方向に働くようだ。同業種内で同職種移動の場合ですら-18.3%と大きく低下する。異業種かつ異職種の場合は-38.8%だ。60代の転職がいかに難しいかがわかるだろう。この背景には、50代はキャリアアップなどポジティブな要素が多く含まれる転職であるのに対して、60代は定年後の雇用先の確保といった要素を含む転職であることがあると予想される。
図2 転職前後の年収の増減率(年代別、転職前後での業種職種移動別)
出典:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2019」
注1:xa19でウエイトバック集計している。
注2:50歳以上の男性かつ過去1~2年に転職した就業者を集計対象とする。また年収の変化率が200%以上の人は外れ値とみなして除外した。
これらから得られる個人に対するインプリケーションは2つだ。1つ目は、あたりまえだが転職は早いほうが良い。チャンスがあるならば、50代に転職を試みるべきだろう。そちらのほうが好条件の転職ができる。2つ目は、同業種同職種の転職先を確保することだ。中高年者ということでこれまでのキャリアを踏まえて、人的資本を一から積み直すことなく、スキルを活かした転職をしたい。
一方で、60代での転職が50代と比較して大きく年収が落ち込むという結果は、60代の転職が正しく評価されていない可能性を示唆する。60代に、個々人のスキルにマッチした職が提供できるような効率的な転職市場が望まれる。
茂木洋之(リクルートワークス研究所/研究員・アナリスト)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。