リーダーシップをインド人に

R.Suresh氏

2015年02月27日

インドに進出した日系企業は、これまで現地で多くの雇用を創出してきた。現在は技術系人材のソーシング(発掘)にも注目している。
RGFインドの取締役 R・スレッシュ氏は、インドで事業展開する日系企業は経営幹部の配置を問い直す時期にあると言う。日本の駐在員と、インドで採用された現地人材。どのような役割分担にすれば、より良いパフォーマンスが出せるのか。

◆ 日・印の2トップ体制から脱却し、より迅速で経済的な管理体制を。
◆ 任期が短い日本人駐在員のCEOから現地採用のCEOに置き換えて、リーダーシップを継続させる。

リーダーシップをインド人に

在インド日系企業の雇用者数は、外資で2位

日系企業の対インド進出における長い歴史の中でも、過去10年間は投資案件の伸びや新興企業の流入が目覚ましい。インドに進出する日系企業の業種は、医薬品、自動車、サービスなど幅広く、2000年4月~2014年2月の累積FDI流入総額は3000億米ドルを超えた(出所:インドNIC)。各企業は、大規模な工場施設、物流拠点、研究開発センター等を設置して数多くのインド人を雇用している。
現在、インド国内にある日系企業は、約1500社。代表的な企業が雇用する現地人材の数は、トヨタが1万人、スズキが2万5000人、東芝が8000人、日立製作所が9000人、ホンダが1万5000人、パナソニックが8000人と推定される(正規雇用、非正規雇用、共同事業や下請け企業の雇用を含む)。
外資企業によるインド市場での雇用人数を見ると、日本はアメリカに次いで第2位。日系企業は、インド国内での資産構築、収益の増加、一般家庭へのブランド浸透、ビジネスの成長維持などを瞬く間に実現し、インドや他の外資系企業と肩を並べるどころか追い越すほどになったと認識されている。

注目されるインドの技術系人材

2013~2014年、対インドFDI総額は350億USドルで、そのうち日系企業のみの投資は40億米ドルであった(インドNIC)。
日本がインドで新たにターゲットとする分野は、インフラ整備の支援と、技術系人材のソーシング(発掘)である。インフラ整備では、日本の政府機関や企業が現地の団体と協力して、スマート・シティ、経済特区、貨物専用鉄道、集合運搬、電力、そして輸送など大規模なインフラ建設プロジェクトに出資している。デリーとムンバイを結ぶ過去最大の貨物専用鉄道DMIC(デリー・ムンバイ産業大動脈)の建設もその一例である。
技術系人材のソーシングでは、今後、日系企業は膨大なハイレベル技術系人材をターゲットにしていくと思われる。インドでは毎月100万人の新たな労働力が創出されており、雇用の受け皿が必要である。新たな労働人口の多くは非技術系人材だが、インドの技術系大学が輩出するエンジニアは年間約20万人。今やデザインとエンジニアリングにおいて世界の中心という地位を築いている。航空テクノロジー大手のハネウェル(Honeywell)がグローバル・プロジェクトのためにインドで1万1000人の優秀なエンジニアを採用しているほか、ボーイング社やGM、フォード、ベンツ、キャタピラー、ジョン・ディアを始め100社を超える自動車メーカーもインド人エンジニアを採用している。
日系企業では、NTT、NEC、東芝などが、グローバル製品の開発および技術革新の需要に対応すべく、インドのエンジニア人材に関心を寄せている。日系企業はインドの研究開発センターに投資している企業もあり、今後は主要製品のデザイン分野にインドを統合して行くものと思われる。

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どのポストにインド人を配置するか、問い改める

インドで事業展開している日系企業は、すべての指示が東京本社から下るというイメージが持たれている。現地に派遣された日本人が現地事務所の幹部を務め、現地の情報を収集・分析してリアルタイムで本社に連絡を取る。情報が東京に集約され、本社から判断と指示が下される。この本社主義的な管理体制は、インドでの操業が比較的小規模な時期は良かったが、変化によりインドの子会社が現地人材をリーダーとして登用し意思決定の権限を委譲する段階となった。日系企業は実際にマネジメント体制を変更する前に、これまでの体制を見直している。そこで提案したいのが下記の3点である。

1. 2トップ体制は時代遅れ

在インドの日系企業は、贅沢にも最高責任者レベルで日・印双方のリーダーを配置する方策を取ってきた。COO、CMO、CFO、そして財務、リスク、その他の部門における上層部についても同様である。どの様な仕組みかというと、インド人マネジャーが現地の社内外関係者の窓口になり、日本人の駐在者はすべての情報を集約して本社と連絡を取り合うという二重構造になっている。この方法から脱却し、より迅速で経済的な管理体制に転換するのが最近の風潮である。たとえ日本語が話せなくても、場合によっては現地のインド人マネジャーに任せた方が上手くいく、と日本人も徐々に気づき始めた(日本語が話せるインド人マネジャーを見つけるのは不可能に近い)。この傾向が浸透して標準化されれば、日系企業はインドで最高の評価を得られるだろう。

2. 駐在CEOから現地CEOへ

在インド日系企業の90〜95%が、日本人をCEOとして駐在させている。通常、CEOは日本から派遣され、3年程度の任期で後任のCEOと入れ替わる。この方針は、仕事の流れを断ち切るほか、不安定なリーダーシップの原因となる。ある日本人CEOがこう言っていた。「日本企業は、現地人材をCEOとして採用するか、日系から駐在させるCEOの任期をもっと長期間にするべきだ。3年間で戦略的なインパクトを構築するには、インドは難解すぎる」
現地CEO側の議論でよく聞く意見では「インドで教育を受けたインド人が、ペプシコ、マイクロソフト、VISA、シティバンクなどのグローバル企業でCEOを務めているのだから、グローバル企業のインド子会社も、彼らが経営できるのではないか?」

3. 日本人は権限委譲や現地化を進める前に、ベストプラクティスを制度化している

日系企業がインド人マネジャーよりも日本人駐在員を好む理由はシンプルである。それは、マネジメント・スタイルの問題である。日本人エグゼクティブは、どこで働いてもグローバル経営マニュアルやテンプレートに基づいて行動し、データを重視し、KPI(主要業績評価指標)を追求し、ビジネスプランを聖域としている。インド人マネジャーは独創的で、創造力に富み、事業の多角化や拡大につながる革新的なアイデアを思いつく。気まぐれで、短期的な個人の目標のためだけに働くことも多い。従って、インド人CEOを配置し、日本人などが現地の取締役会や会長を務めて厳しく監督する、というのが最良の組み合わせだろう。インド人CEOに日系企業での経験があれば、理想的である。

おわりに

インドで印・日の協力関係が成功している背景を総括すると、日本からの投資の継続、インド人マネジャーが日系企業に適応したこと、以前に増して本社が現地人材のリーダーシップを重視している、という3点が挙げられる。近い将来、インドの日系現地法人では駐在員よりも現地のCEOや管理職が増えて、コスト削減や最適な管理体制、そして持続可能なビジネスモデルの実現が可能になるだろう。

プロフィール

R.Suresh (スレッシュ)氏

RGFインド 取締役

インドにおける人材斡旋事業(エグゼクティブサーチ、マネジメントサーチ等)の経営統括を担当。インドを中心としたサーチ業界での経験は20年以上。コンサルティング、製造、流通、サプライチェーンなど、バックグラウンドは幅広い。
NITIE経営工学修士号取得。