グローバル企業の採用戦略 ペプシコの場合
Vol.5 ポール・マーチャンド氏(Paul Marchand) ペプシコ グローバル人材獲得部門バイスプレジデント
最も重視しているのが、「グローバルマインドセット」
私は、グローバル人材獲得部門の責任者として、新卒から上級ポストまで世界中の採用状況を現地の担当者から直接・間接的に報告を受けています。当社の未来を築く人々を迎え入れるのが私の責任。そのために採用だけでなく、人材戦略やビジネスモデルとの調和、マーケティング、利用するITや人材紹介会社などベンダーのマネジメントなども統括しています。
採用に際して特に重視しているのは、グローバルマインドセットを持った人材であるかどうか。それは、単に海外で暮らしていたとか留学経験に関係なく、ダラスやシカゴ、ニューヨーク、北京など勤務地がどこであろうと、ペプシコという会社やビジネスに対してグローバルな視点を持つことができる人材であるということです。
そうした資質は、候補者との会話などを通じて、本人の思考プロセスや物事へのアプローチ、取り組み方などを明らかにして理解します。
また、グローバル人材を採用するスタッフにもグローバルマインドセットは必要です。
たとえば、ミドルレベルの採用担当者が、本人の強い希望もありシカゴから英国に異動しました。社内には反対意見もありましたが、私は人材獲得部門の人間の流動性が向上してほしいと願っています。そうすることによって、メンバーはグローバルな経験を積むことができるのです。
欧州やアジアは人材に対するアプローチの仕方や考え方が米国とは異なりますし、市場の細分化も異なります。中国やインドの急成長は目を見張るものがあります。それらの国々から多くの教訓や学びを得ることができると思うので、グローバルマインドセットは今後も非常に重要になると思います。
Center of Excellenceを核とした人材戦略組織
元々ペプシコのスタッフィングモデルは、買収した世界中の多くの異なるビジネスやブランドを傘下に収めるというビジネスモデルを再現したものでした。
たとえば、1964年にフリトレーとペプシコーラが合併し1965年にペプシコが誕生しましたが、ペプシコは持ち株会社として組織が別になり、フリトレーとペプシコーラは別々の事業体としてそれぞれにスタッフィング部門がありました。その後、クエーカーとゲータレードのブランドを持つクエーカーオーツやトロピカーナなどを買収しましたが、いずれも独自のスタッフィング部門がありました。
しかし、それは自社の組織体系に基づくもので、候補者(応募しようとする人)の視点からすると必ずしも重要なことではないと思いました。
候補者マーケットを消費者マーケットと同様にとらえれば、候補者マーケットに対する効率や効果を高めていくには、候補者が求めるようなやり方でアプローチし情報を提供していくことが重要です。
そこで、地域や事業ユニット別から職種別へと再編し、たとえば営業関係のマーケットに詳しいリクルーターで構成された営業専門のスタッフィング部門を構築することなどを始めたのです。
ただし、ある程度の地理的な制限は設けていて、ニューヨークに拠点を置く営業専門のリクルーターが上海の営業ポストの採用を担当することはありません。グローバルとローカルの切り分けは、やはり必要になってきます。
一方で、横断的に管制塔のような役割を果たす組織が必要と考え、当社ではCenter of Excellence(COE)という組織を設けました。
COEはグローバル人材獲得のプラットフォームを管理し、ATSや採用ブランド、マーケティングをはじめ、社内や社外の人々とのコミュニケーションや情報発信などを担当します。メンバーは求人案件を抱えるいわゆるリクルーターではなく、それぞれに専門領域を持ちながらグローバル人材戦略のプロとして活躍しています。
その一つの事例が、クリス・ホイトが開発したiPhone/iPad向けの「US Possibilities」というペプシコ公式アプリ。クリスはかつてリクルーターでしたが、ソーシャルメディアやデジタルメディアに特化した専門家として進化し、採用ブランディングの分野で活躍しています。
また、グローバル人材獲得COEを率いるシニアディレクターの一人は、ある週は欧州で欧州事業ユニットの人々とともに新しいATSを稼動させる準備をし、次の週はアジアで……というように、世界中を飛び回って各地のサポートを行っています。
グローバルマインドセットが重要だからこそ、このような動きは不可欠になりました。それは、ビジネスのあり方の変化とも共通していていると思います。
かつてはペプシコーラやダイエットペプシの極秘配合レシピ「フォーミュラ」も、地域によって違いがありました。それは、地域によって入手できる成分が異なっていたからです。しかし物流が進化し、世界中どこでも同じ成分を入手できる状況が近づいています。そうなれば、商品はどの地域でも同じ味で提供できるわけです。
しかし、だからといって、地域による嗜好やニュアンスの違いに適応しないわけではありません。フリトレー事業を例に挙げると、米国ではBBQ味のポテトチップスが非常に人気の高い商品ですが、アジアでは海老味、ロシアではキャビア味が人気です。
そんなローカルでの消費者ニーズを見抜き理解すると同時に、グローバルでの一貫性についても考える。同じことが、人材戦略でもいえるのだと考えています。
最新テクノロジーの活用が、人材戦略には不可欠
グローバル人材戦略を支えているのは、一つには進化し続けているテクノロジーです。当社のあらゆる地域で導入しているシスコシステムズの「テレプレゼンスルーム」というシステムは、簡単に日程を調整してメンバーを召集できて、従来のビデオ会議やスカイプなどよりもダイナミックな会議を行うことができます。そのおかげで、当社は24時間体制で人材獲得のために動けるのです。
また、候補者とのコミュニケーションも大きく変化し始めています。その1つが、iPhone/iPad向けの「US Possibilities」というアプリをどこよりも早く開発したこと。
時代を先取りして世界中で普及し始めていた携帯端末にいち早く対応せずに、就職したい会社ナンバー1になれるとは到底考えられません。ほかの人々が行っていることを飛び越え、今までにない、時には強引とも思われる型破りなものに取り組むことが必要だと考えています。
このアプリが可能にしたことは、企業と候補者との「対話」です。従来の、企業がブランドメッセージや求人広告を一方的に押し付け求職者が応募するのを待つというスタイルを、双方向の対話を持つスタイルに変化させました。対話を持つということは、透明性や信憑性を高めることを意味しています。
今後特に、新卒採用のやり方が大きく変化すると思っています。学生も我々企業も、ウェブやメール、携帯電話でコミュニケーションすることに何の抵抗もありません。そのため、従来のようなキャンパスでの面接会や就職フェアなどにあまり意味を見出さなくなってきているのは事実です。新卒採用の手法は今後劇的に変化するのではないでしょうか。
戦略的タレントアドバイザーとしての役割が必要になる
現在ペプシコでは、積極的にRPOを利用しています。たとえば、フロントラインの営業ポストなど基準が明確でローカライズされた採用では、短時間で良い人材をタイムリーに低コストで確保できるRPOは欠かせない存在です。
また一方で、エグゼクティブサーチ会社の利用も、今後も続くものと考えています。特殊なスキルや能力、あるいは特別なロケーションを必要とする採用難易度の高いポストの確保には、社外の力を利用することが重要だからです。
だからこそ、リクルーターには非常に高い「戦略的タレントアドバイザー」としての役割が求められるようになります。
多数の採用案件を抱え、プロセスや選考などに長けているだけでなく、事業ユニットリーダーやHR、ビジネスパートナーなどに対し、外部人材市場や社内の人材戦略とビジネス戦略との関係と、そのオペレーションなどについて説明できることが必要になるでしょう。
より包括的な視点を持ち、業務を処理するだけでなく、問題解決にフォーカスする能力が不可欠になります。そのためには、コンサルティングやプロジェクトマネジメントなども経験し、人事ゼネラリストとしてもさまざまな経験が必要になるでしょう。そうした意欲と能力が、今後ますます重要になると考えています。
プロフィール
ポール・マーチャンド氏(Paul Marchand)
【企業プロフィール】
ペプシコ(PepsiCo, Inc.)ペプシコーラで知られる食品・飲料会社。1902年米国ノースカロライナ州でペプシコーラ・カンパニー設立。1965年、ペプシコに。現在の本社は米国ニューヨーク。全世界200カ国以上で事業展開する多国籍企業。