定年を前にして、仕事に求めるものは変わっていく
人は仕事に何を求めるか。前回行った分析で累計された6つの価値観をもとに、定年前後の仕事に対する価値観の変化を追う。
仕事に対して多くの価値を置く20代
年齢を経るごとに、その価値観がどのように変わっていくのか。各因子得点の推移を年齢別に表した(図表1)。
これをみると、20代は仕事に多くの価値を見出す年代だということがわかる。20代の因子得点が最も高いのは「高い収入や栄誉」となっている。こうした目標を持つことが、仕事に関する能力を拡張させるモチベーションになり、職場によい競争を生み出し、組織のパフォーマンスも高まっていく。そうした意味で、若手が「高い収入や栄誉」に価値を感じて競争をすることには大きな意味がある。
さらに、「仕事からの体験」や「能力の発揮・向上」も得点が高い。新しい仕事に楽しさを見出し、仕事能力の向上を実感することができる年代が20代なのである。
図表1 価値観の因子得点の合計
出典:リクルートワークス研究所「シニアの就労実態調査」より作成
50代で人は仕事に対する価値を見失う
しかし、歳を経るにつれ、仕事を通じて感じる価値は減じていく。20代から30代になると、多くの因子が急激に下がる。仕事に対して、緩やかに価値を感じなくなっていく。
もちろん、年齢が上がっても「高い収入や栄誉」に価値を感じる人はまだいる。会社で地位を上げ収入を高めることに希望を見出す人は、30代や40代の時点でも多い。ただし、それ以外の要素は重要だと感じなくなっている。「生活との調和」は引き続き重要な価値となっているが、これは家庭を持って子供ができ、仕事を通じて家族の生活を豊かにすることを求める人が増えるということなのではないか。
そして、ほとんどの価値観について、落ち込みの谷が最も深いのが50代前半である。この年齢になるとこれまで価値の源泉であった「高い収入や栄誉」の因子得点もマイナスとなり、仕事に対してほとんど価値を感じなくなってしまう。定年が迫り、役職定年を迎える頃、何を生きがいにすればいいのか、目標を見失う人も少なくない。そうした現実がデータからうかがえる。
長い期間をかけて新しい仕事の価値に気づいていく
仕事に関して最も思い悩むのが50代前半だとすれば、仕事に新しい価値を見出す転機もその年代となる。心理学者ユングは40歳を人生の正午と見なし、そこから各自の個性化が進んでいくとした。しかし、人生100年と言われる現代においては、その時期はやや後退しているのかもしれない。
実際に、50代前半を底とし、「高い収入や栄誉」を除いたすべての価値観が、70代後半に向けて価値を増していく様子がみてとれる。仕事に何を求めるかという観点でみたときに、50代は大きな転機になる年齢なのである。
50代において失われた、仕事に対して感じる価値が、以後、長い時間をかけて再生していく。そして、定年以降に見出される仕事に対する価値観は、20代の価値観と大きく異なっていることにも注目したい。
高齢になるほど高まる価値観としては「他者への貢献」「体を動かすこと」などがあるが、いずれも20代では重視されない。つまり、より正確に言えば、多くの人にとって価値観は単に回復するだけではなく、仕事の中で新しい価値観を見出していくというプロセスをたどる。