定年後、仕事はどう変わるか

2021年03月15日

大久保幸夫『キャリアデザイン入門Ⅰ・Ⅱ』(日経文庫)を参考に働く人の職業能力を分解してみたところ、定年後は対人・対自己能力が高まることがわかった。それでは、体力や気力などの能力はどうか。引き続き、定年後の人が能力の変化や仕事の内容の変化をどう認識しているかを調べてみよう。

能力低下の主因は、体力・気力の低下

専門知識、専門技術については、60代後半以降はDIが0%近傍で推移し、大幅にマイナスに振れるのは70代後半となる。多くの人は自身の専門知識・技術は、歳をとっても保たれていると考えているのである(図表1)。

図表1 専門知識、専門技術の変化

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出典:リクルートワークス研究所「シニアの就労実態調査」

最後に分析したのが体力、気力だ(図表2)。この2項目については、定年を前にして既に下がり始め、上昇と低下の境目となる0%を下回るのが40~49歳である。平均的には40歳以降に人は体力・気力の低下を認識し始めるということだ。

図表2 体力、気力の変化

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出典:リクルートワークス研究所「シニアの就労実態調査」

以上の結果をまとめると、人々は定年前後に体力・気力の低下を感じ、処理力、論理的思考力もやや下がると感じている。一方で、対人能力や対自己能力は向上し続け、専門知識・技術も陳腐化せずに仕事に必要なレベルを保つことができていると考えている。つまり、一部の能力は拡大を続けるものの、体力・気力の低下が主因となって、職業能力全般も総体的に下がるといった図式がみてとれる。

定年を転機に仕事負荷が下がる

能力に対して、仕事の負荷はどう変わるのだろうか。

それは能力と比較して傾向は明確だ(図表3~6)。すなわち、ほぼすべての項目において、定年を境に急速に負荷が「上昇する」から「低下する」に転じる。「仕事の量」、「仕事の難しさ」など仕事の質に関する項目、「仕事からの報酬」といった外形的な項目、あらゆる項目で定年前と定年後とで断絶がある。

図表3 仕事の量への認識

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出典:リクルートワークス研究所「シニアの就労実態調査」 

図表4 仕事の難しさ、仕事における責任への認識

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出典:リクルートワークス研究所「シニアの就労実態調査」

図表5 仕事における権限、仕事における職場からの期待への認識

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出典:リクルートワークス研究所「シニアの就労実態調査」

図表6 仕事における社会からの評価、仕事からの報酬への認識

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出典:リクルートワークス研究所「シニアの就労実態調査」

いずれの項目も平均的には下がっていくのだが、より低下しやすい項目とそれほどでもない項目とがある。相対的に低下が著しいのは「仕事からの報酬」である。仕事の内容はそれほど変わらないのに、定年を境に給与が下がる。このように感じている人が多いのだ。

 「仕事の量」「仕事における権限」も低下度合いが大きい。一方で、「仕事の難しさ」は小さい。仕事の質は維持・向上することもあるだろうが、量や権限といった外からもたらされるものは、より失われやすいということだろう。また、負荷を構成する項目のすべてが、定年を経た60代前半以降、下がり続けることも重要な事実である。

もちろん、個々によって大きなばらつきはあるものの、平均的には、定年以降、能力の低下に合わせて仕事の負荷も低下を続ける。これが定年後に多くの人が直面するキャリアの実態である。

この結果、能力と仕事の負荷との関係性に人々はどのような感覚を持つのか。次回は、能力と仕事負荷との関係性を分析する。

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