育児は働く男女の時間をどのように変えるか? 生活時間データでみる「家庭と仕事の両立」 伊川萌黄

2022年02月24日

子どもの誕生は多くの人が体験しうる大きなライフイベントの一つである。子どもをもつにせよもたないにせよ、育児によってどのように日々の生活が変わるのか、思い悩む人も多いのではないだろうか。特に、「女性活躍」が推進される昨今において、家事・育児と仕事をどう両立させるのか、働き世代の女性にとっては大きなテーマであろう。また、男性の育休取得が政策的にも後押しされている現状において、「家庭と仕事の両立」は女性だけのテーマではなく、男女間にどのような差が存在するのかを理解することは重要である。

そこで本コラムでは、「全国就業実態パネル調査(JPSED)」を用いて、第一子誕生前後の3年間における各時点で「就業していた人」を対象に、どのぐらいの時間を家事・育児・労働に費やしていたか、また、男女差がどのように存在するのかをみていきたい(対象サンプルの抽出条件詳細は注1を参照)。

第一子誕生で広がる家事・育児時間の男女差

まず、家事・育児時間についてみてみよう。図1は、横軸に第一子誕生前後の時間軸をとり、縦軸には就業日・非就業日を含めた1日当たり平均の家事・育児時間をとったものである。第一子誕生前の家事・育児時間は、女性平均が約2時間、男性平均が約1時間で、男女差は1時間程度である。第一子誕生年には女性平均は6時間半、男性平均は2時間半となり、男女差は誕生前よりも大きい4時間であった。第一子が1歳のときに女性の家事・育児時間は8.2時間と最も長く、男女差は5時間半となった。

図1 第一子誕生前後の家事・育児時間
第一子誕生前後の家事・育児時間

出典:「全国就業実態パネル調査(JPSED)」(2017〜2021)

この結果について、ご自身の経験に鑑みて少し違和感をもたれる読者もいらっしゃるかもしれない。注意していただきたいのは、グラフ中の結果は調査回答時の12月時点において「育休期間中ではなかった就業者」を対象としたものであることだ。育休期間中のほうが、当然家事・育児時間が長くなると予想される。たとえば第一子が1歳になるまでの1年間育休を取得し、その後復職した場合には、1年後のほうが家事・育児時間が短くなるケースもあるだろう。また、そもそも時間的に忙しいときほど調査に回答できない場合もある。以上のことから、図中の結果は必ずしも同じ人の毎年の状況を追っているわけではないということに注意されたい。

なお、育休期間中の回答者に限定すると女性平均は、誕生年に8.4時間、第一子が1歳のときに10.8時間と、育休期間中ではなかった就業者よりも約2時間長くなった。男性についてはそもそも育休取得率が低いので平均値の信頼性は下がるが、誕生年に5時間、誕生1年後に5.4時間であった。

労働時間、男性はほぼ変化なく、女性は微減

次に、同じ時期の労働時間についてみてみよう。縦軸に労働時間をとった場合(図2)、男性の場合はどの時点においても6.4時間付近であるが、女性の労働時間は出産前に比べて第一子誕生以降に約1時間短くなっている。第一子誕生以降、労働時間の男女差は約2時間となっている。

図2 第一子誕生前後の労働時間
第一子誕生前後の労働時間

出典:「全国就業実態パネル調査(JPSED)」(2017〜2021)

「家庭と仕事の両立」、女性は男性プラス3時間半の負担

それでは、家事・育児・労働時間を合計した生活時間でみると男女差はどのようになるだろうか。縦軸に合計の生活時間をとったとき(図3)、第一子誕生前は男性平均がわずかに長いが、誕生後は男女差が大きく存在し、第一子が1歳のときには女性平均が12.4時間、男性平均が9時間と、男女差は3.4時間となった。
この結果の背景は、先にみた家事・育児時間と労働時間における男女の違いから明らかであろう。つまり、第一子誕生後の家事・育児時間には大きな男女差が存在するが、その差をすべて相殺するほどには労働時間に男女差が存在しないためである。

図3 第一子誕生前後の家事・育児・労働時間
第一子誕生前後の家事・育児・労働時間

出典:「全国就業実態パネル調査(JPSED)」(2017〜2021)

どうすれば家事・育児時間の男女差は小さくなるのか。国内・海外の研究によれば、男性の育休取得はもちろんのこと、在宅勤務実施は男性の家事・育児時間を増加させた(注2)。国も男性の育休取得を促す。2021年6月に成立した改正育児・介護休業法では、従業員数1000人超の企業に対し、男性の育休取得率の公表を2023年4月から義務づける。このような公表義務化は、投資家や求職者の企業選定を通じて男性の育休を後押しするだろう。

 

(注1) 計算に用いたサンプル数は期間ごとに異なり、女性は各期間において227〜520程度、男性は187〜1443程度であった。計算の対象となった回答者は、「全国就業実態パネル調査(JPSED)」(2017〜2021)で「就業中」と回答した者のうち、期間中に第一子が誕生し、かつ、第二子が誕生しなかった回答者である。「第二子が誕生しなかった」という条件は、第一子誕生と第二子誕生の影響が混ざらないように追加したが、これにより男性の平均的な家事・育児時間の下方バイアスが想定される。理由は、第一子誕生時に夫の家事・育児時間が長いほど、第二子がうまれやすいという関係性が指摘されており、調査期間中に第二子が誕生したサンプルを除くことで、男性の平均的な家事・育児時間が母集団よりも短く推定されているかもしれないためである。さらに、計算対象からは育休期間中のサンプルを除外した。これは就業者の育休取得率は女性8割、男性1割となっているため(厚生労働省「令和2年度雇用均等基本調査」)、調査回答時に育休中であった男性サンプル数がとても少く、「育休中」の男女比較が困難であったことによる。なお、女性の育休取得者のうち、第一子が1年未満で仕事を再開したのは6割、1歳半未満では3割であるため(同「平成30年度雇用均等基本調査」)、対象となる女性のサンプル数は男性よりも少なくなる。また、平均の算出においては本調査の期間(2017〜2021年)の途中で脱落のあったサンプルも計算対象とした。脱落の要因と第一子誕生が相関する場合はバイアスが予想される。
(注2) たとえばhttps://www.u-tokyo.ac.jp/content/400171054.pdfなど。

伊川萌黄(客員研究員)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。

 

※本コラムを引用・参照する際の出典は、以下となります。
伊川萌黄(2022)「育児は働く男女の時間をどのように変えるか? 生活時間データでみる『家庭と仕事の両立』」リクルートワークス研究所編「全国就業実態パネル調査 日本の働き方を考える2021」Vol.9(https://www.works-i.com/surveys/column/jpsed2021/detail009.html)

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