女性リーダーからの手紙

分け隔てのないアサインメントを促す仕組みを

2016年10月10日

人事部御中

2016年4月の女性活躍推進法施行もあり、女性の活躍に対する社会の関心が今、また高まっていますね。人事部の皆さまにおかれましては、社員が性別を問わず能力を発揮できる環境の整備に日々尽力されていることと存じます。その一環として私自身の経験がお役に立てればと筆を執りました。振り返ってみますと、私が今あるのは会社や上司が上手に仕事を与えてくれたことが大きかったと感じています。どんな仕事の与えられ方が自分を育んでくれたのか、そのような状況を組織的に作り出すために何が必要なのか。個人的に考えるところを、4つお伝えします。
まず、私が幸運だったのは、入社当初から各部署と調整が必要な OA関連のプロジェクトに次々と携わり、若手社員時代に社内の仕事や人を知る経験ができたことです。特に「成長促進剤」となったのは、入社6年目にアサインされた、社内の各部署の業務システム内のデータを社員が自ら活用できるようにするプロジェクト。あらゆる部署をまわって、顧客情報や財務関連情報など眠っていたデータを洗い出し、どんな形で共有すれば役立つのかを設計するのが私の役割でした。その過程で各部署の仕事内容や、誰に何を聞けばいいのかがわかるように。多様な視点で物事を考えられるようになってアイデアの引き出しが増えましたし、複数の部署間の合意形成をスムーズに運べるようになり、目標を成し遂げやすくなりました。
2点目は、そのときどきで自分が「できる」と思っていることよりも、ひと回り大きな仕事を与えられ続けたことです。社内を見渡すと、実績相応の仕事を与えられる人と、私のようなタイプの人とは半々のようです。人によって自分に合う仕事の与えられ方は違いますが、私の場合はストレッチ効果によって力を引き出されたと思います。

早い時期に成長のフックとなる経験をし、段階的に大きくなる仕事を短いサイクルで与えられて成長する。私がそのような状況下で育つことができたのは、「あいつにやらせてみよう」と思ってくれる人たちがいてくれたから。これが、3点目です。仕事に真面目に取り組んでいる人はほかにもいるなかで、なぜ私に目を留めてくれたのか。「社内で自分のことを知ってくれている人の数」も少なからず影響していたのではないでしょうか。私は部門横断プロジェクトにいくつも携わってきましたし、性格的に社内の非公式な場でもさまざまな人と話す機会が多いほうだと思います。男女雇用機会均等法第1世代で、「女性がフェアに働けているか」という点において社会的に注視されやすく、会社から何かと気にかけてもらえる面もありました。
自分のことを知ってくれている人の数が多いほど、アサインメントの機会も増えるというのは自然なことです。同世代の女性から「与えられる仕事に男性との差を感じる」という話を聞くことがありましたが、そういうことが起きるのは、男性に比べて女性が上司層に知られにくいことにも起因しているかもしれません。一般的に男性は男性同士でネットワークを築きやすいからです。ポジションや性別にかかわらず、社員がお互い一歩踏み込んで知り合う機会を公式、非公式の場に仕込む工夫をしていただけると、そういった「性別による認知度の格差」をなくすことにつながるのではないでしょうか。女性の活躍には、上司が分け隔てのないアサインメントをしやすい仕組みづくりも不可欠だと思います。
最後に、プロジェクトという仕事の形態を人材育成施策に組み込むのは、性別を問わず、社員の成長を促す1つの方策かもしれません。プロジェクトを遂行するには関係者にロジカルに物事を説明し、合意形成をしなければいけません。目標に向けて人を説得し、力を借りるというのはリーダーシップと同義。部門横断プロジェクトのアサインメントは、リーダーシップ開発にもつながるのではないでしょうか。

Text=泉彩子 Photo=刑部友康

鴫谷あゆみ氏

東京ガス 執行役員 業務改革プロジェクト部長

Shigitani Ayumi 東京工業大学院修了。1988年東京ガス入社。2016年4月、生え抜きの女性では同社初の執行役員に就任。