リクルートワークス研究所
研究員
橋本賢二Kenji Hashimoto
国家公務員の経験と視点を活かしながら、より自由に社会課題へアプローチできる場だと感じたからです。
私のファーストキャリアは、国家公務員の人事制度を所管している人事院で、国家公務員採用試験の見直しや国家公務員の給与額などを勧告する人事院勧告をとりまとめることでした。
各部署の施策を優先順位や社会的なインパクトなどを考慮しながら、全体のバランスを整えて公表していく必要があり、公表後も社会の関心に即してその背景や内容を説明していかなければならないので、メタな視点が養われた経験です。
2015年からは経済産業省へ出向し、働き方改革やキャリア教育を推進する役割を担いました。 社会が変われば、働き方や育成の在り方も変わっていくべきであり、必要なものを更新していかなければなりません。キャリア教育の担当をしていたときには、2006年に経済産業省が制定した「社会人基礎力」を「人生100年時代の社会人基礎力」として改定することに携わっていました。
人事院に戻ってからは、国家公務員全体の採用業務に関わりました。また、新しい知識や世の中の状況などインプットを増やしていきながら国全体の動きをみて、公務が社会に及ぼしているインパクトを具体的に分かりやすく発信していくことにもやりがいを感じていました。
一方で、官公庁ならではの制約もありました。取り組まなければならない課題や新しいアイデアがあっても、実現が困難な場合があるためです。そんなときにリクルートワークス研究所のホームページで、採用についての記載を目にしたのです。
人事院での業務のなかで、リクルートワークス研究所の研究はよく参考にしていたのですが、リクルートワークス研究所では「委託を受けない」という理念を掲げており、社会的に意義のある課題と向き合う「公益性の高さ」は維持しながらも、自由に発言し、提言できる環境に魅力を感じました。 リクルートワークス研究所は社会にとって本当に必要な提言を発信するためにそのような方針を持っているのです。ここであれば、公益性の高い内容を自由に発信し、社会の閉塞感を打ち破る役割を果たせると感じました。
また、リクルートワークス研究所の掲げる「半歩先」を示して「ドミノの1枚を倒す」という理念にも共感しました。 リクルートワークス研究所では研究成果を社会に届けて、個人の意識や行動が変わり、社会がより良い方向に変わっていくことこそ価値があると考えています。ですが、個人が行動や意識を変えるために、一歩目を踏み出すのは実際とてもハードルが高い。だからこそ、手の届きそうな「半歩先」を提示して、本当に皆が踏み出して社会が変わっていくことを目指しているのです。そしてどんな内容を提示すれば皆が踏み出せるのか、それを探していくことが「ドミノの1枚を倒す」と表現されている、ということを知りました。
社会的な意義の大きいテーマに対して、独立した立場で研究し、研究に根差した確かな発信で社会を変えていく。まさに理想を実現できる場所だと感じ、リクルートワークス研究所でのキャリアに挑戦することを決めました。
現在、「令和の転換点」というプロジェクトに取り組んでいます。このプロジェクトは2024年度の基幹プロジェクトとして、日本の人口動態の変化が生活基盤にどのような影響を与えるかを研究しています。
実際に研究を進めるフローについて少しご説明させてください。
リクルートワークス研究所の基幹プロジェクトは、個別プロジェクトとは少しフローが違います。 まず前年度の12月頃に各研究員が関心のあるテーマを登録し、それをもとに意見交換を重ねてテーマの可能性を広げるところからスタート。議論の末、実施するテーマが確定すると、研究員たちは自身が参加を希望するプロジェクトに手を挙げます。基本的には、研究員の意思が尊重され、プロジェクトにアサインされる仕組みです。
基幹プロジェクトである「令和の転換点」には複数のメンバーが参加しており、私は少子高齢化が進むなかで公務サービスの維持が難しくなる課題にフォーカスしています。
私がこの研究をしたいと思った背景には、公務員として携わってきた公務の現場に対する強い問題意識があります。 例えば、道路や上下水道といったインフラは、私たちの生活に欠かせないものであり、メンテナンスや運営が少しでも滞れば大きな社会的影響が生じます。ところが、こうした基盤を支える公務員の存在やその仕事の内容はあまり知られていません。
人口が減少して少子高齢化が進むと、公務サービスの需要が増加する一方で、労働力は低下するので、それを提供できる人材は限られていきます。この現状を放置していると、公務サービスが提供してきた当たり前を維持できなくなる局面が来るかもしれません。
私は公務員として働いていたときから、そこには強い危機感を抱いていました。
この問題意識を、公的統計やリクルートワークス研究所がもっている「全国就業実態パネル調査(JPSED)」のデータなどを用いた分析からレポートとして世に示して、これまでの公務のあり方を前提としない議論の必要性を訴えています。今は、有識者や自治体へのインタビュー、定量調査を実施しながら、持続可能な公務の在り方を具体的に提示できるように研究を進めています。
公務員の立場にいた時には発信できなかった視点を、外部からの視点で改めて深掘りし、発信する意義は非常に大きいと感じます。
世の中をちょっとでもよい方向に変えることに貢献できることがやりがいです。
リクルートワークス研究所では、肩書や利害関係に縛られず社会にとって本当に必要なテーマに対し、自分の問題意識を深く掘り下げ、発信することができます。また、単に問題を指摘するだけでなく、解決策とセットで社会に発信する点に、リクルートワークス研究所ならではの価値があると感じています。 公務員時代に培った現場の視点を活かして、人や組織に関係する課題を現実的な視点から問いかけられることが私の強みであり、大きなやりがいです。
世の中には「裸の王様」のように、何か問題があると気づきながら誰も問題を指摘できない状況が多く存在します。もし誰も声を上げなければ、その状況はそのまま維持されて社会に閉塞感がうまれてしまいます。そのような事態に陥らないために、リクルートワークス研究所は、冷静に「本当にそれでいいのか?」と問い直して、問題の解決に向き合う仲間を増やしていきます。このような組織は、世の中を見渡しても稀有な存在ではないでしょうか。
そして最も実感として「やっていてよかった」と感じるのは、やはり共感や反響を得たときです。 研究成果が社会に届き、SNSなどで「こうして言語化してくれてありがとう」といった声が届くと、私の研究が誰かの問題意識を明確にし、同じ志を持つ仲間が増えたと感じます。
その共感が社会に連鎖し、次の一歩に進む可能性が広がることは、研究者としての大きなやりがいです。
ひとつは、人の魅力です。公務員時代からリクルートの社員と接する機会がありましたが、その方たちはエネルギッシュでバイタリティにあふれ、前向きな姿勢を持つ印象が強く残っています。
この特性は、リクルートワークス研究所のメンバーにも共通しています。赤く激しく燃え上がる炎というよりも、青く静かに燃えている炎のような情熱を持つ人たちが集まっていると思います。
こうした仲間とともに、自分の問題意識に基づいて社会にとって必要なテーマを深く掘り下げられる環境はとても魅力的ですね。
働き方も大きな魅力です。リモートワークやフレックスタイム制度といった柔軟な働き方が整備されており、研究に集中できる環境が整っています。
研究業務では文献や論文などの資料や調査データなどを参照することが多く、自宅に研究リソースを整えられる環境は、移動時間もなく非常に効率的です。物理的な書籍や過去のレポートなど、自宅にあるリソースをフル活用できることで、より深く掘り下げた分析や考察が可能になり、質の高い研究成果を生み出せると感じています。 リモートワークを基本としつつも、必要に応じてオフィスに出向き、同僚や外部の方々と顔をあわせて意見交換ができるため、閉じこもり過ぎずに、刺激を受けながら仕事ができています。
フリーアドレス制のオフィス環境も、さまざまな視点を持つメンバーと気軽に交流しやすい仕組みになっているため、研究アイデアの創出や課題に対する新たな視点の発見にもつながっています。このように研究員一人ひとりが自身の働きやすさに応じた環境を選択できることで、成果に集中できる点は非常にありがたいと感じています。
今後の目標としては、引き続き社会に必要なテーマに正面から向き合い、私自身の経験を活かしながら、社会の閉塞感を打破する発信を続けることです。 少しでも多くの方々と一緒に、社会がより良い方向に進むための一助を打ち出せるように、研究と発信に邁進していきたいと考えています。